ベテラン依存による属人化はどう解消する?「あの人に聞かないとわからない」状態を AI で抜け出した企業の事例に学ぶ
「聞けばわかる人がいる」は、いつまで続くのか ― 見落とされがちな退職リスク
「その件は○○さんに聞けばわかるよ」
「前にも同じことがあったはず。△△さんが対応してたから聞いてみて」
「マニュアル? あるにはあるけど、結局は○○さんに確認したほうが早いんだよね」
社内のベテラン社員に質問や相談が集中する。マニュアルはあるのに、結局は「わかる人に聞く」ほうが早い。そんな状況に心当たりはないでしょうか。
この構図がうまく回っているうちは問題が表面化しません。しかし、そのベテラン社員が異動したら? 退職したら? 体調を崩して長期休暇に入ったら? ――「あの人がいないと回らない」という状態は、組織にとって見えにくいリスクを抱えています。
実際に、総務省の調査でも中小企業の約7割が「特定の社員に業務知識が偏っている」と認識しているとされています。問題に気づいていても、具体的な手の打ちようがわからず放置されているケースが大半です。
本記事では、ベテラン依存による業務の属人化を解消するために押さえるべきポイントと、よくある落とし穴、そして実際に約1ヶ月で「あの人に聞かないとわからない」状態から抜け出した企業の事例を紹介します。
ベテラン依存を解消したいと動き出して、つまずく典型パターン
「ベテランが持っているノウハウを形にしないとまずい」「退職される前に引き継ぎを進めたい」という課題意識自体は正しい方向です。しかし、いざ具体的な対策を取ろうとすると、多くの企業が同じところでつまずきます。
① 「マニュアルを整備しよう」と決めたが、結局進まない
最初に思いつくのは「マニュアルをちゃんと作り直そう」「ナレッジベースを整備しよう」という施策です。しかし、ベテラン社員は日々の業務で忙しく、マニュアル作成に割ける時間がありません。仮に時間を確保しても、長年の経験で身についた暗黙知を「誰が読んでもわかる文書」に落とし込むのは想像以上に難しい作業です。結果として、マニュアル整備プロジェクトは開始直後に止まるか、作ったものの誰にも使われないまま放置されてしまいます。
② ChatGPT などの汎用 AI に聞いてみたが、自社の話には答えてくれない
次に試すのが、ChatGPT などの汎用 AI に社内の質問を投げてみるパターンです。しかし、汎用 AI は自社のマニュアルや過去の対応履歴を知りません。「この製品の仕様変更はいつ行われましたか?」と聞いても、一般的な回答が返ってくるだけです。「AI ってこんなものか」と、ここで検討が止まってしまうケースは非常に多いです。
③ SaaS の AI 機能を勧められたが、ピンとこない
SaaS ベンダーから「文書をアップロードするだけで AI が回答します」と提案を受けることもあるでしょう。しかし、ベテランの知識が詰まっているのはマニュアルだけではありません。過去の対応履歴、業務管理ツールに蓄積されたやり取りの経緯、PDF やメールに散在する情報など、形式もバラバラです。SaaS の AI 機能では、こうした多様な形式のデータをまとめて検索・回答させることが難しく、「結局うちには合わないのでは」と判断が止まってしまいます。
マニュアル整備でも SaaS でもベテランの知識を引き継げない理由
「SaaS ツールにも AI 機能がついているのに、なぜそれでは足りないのか」
これは、社内で導入を提案する際に、最もよく聞かれる質問です。
近年、社内文書をアップロードして AI に回答させる SaaS 型チャットボットが数多く登場しています。その中核となるのが RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)という技術です。これは、AI が回答を生成する前に、まず社内のマニュアルや資料の中から該当する箇所を検索し、その内容をもとに回答を組み立てる仕組みです。いわば「資料を読んでから答える AI」であり、SaaS 型でも自社構築型でも、社内ナレッジ検索 AI の精度を左右する中核技術とされています。
PDF や Word を読み込んで回答する、出典リンクを表示するといった基本的な機能は、SaaS でもある程度カバーできるようになってきました。しかし、ベテラン依存の解消という目的で使おうとすると、SaaS の枠組みでは対応しきれない場面が出てきます。
ベテラン依存を解消するには、きちんと整理された文書だけでなく、日々の業務で自然に蓄積された対応履歴やメールのやり取りなど、形式がバラバラなデータも含めて横断的に検索できる仕組みが必要です。SaaS 型は「すぐに試せる」「運用の手間が少ない」という明確な強みがある一方、こうした多様なデータの統合や検索精度の細かなチューニングが求められるケースでは、自社環境に構築するアプローチのほうが適しています。
| 比較軸 | RAG 搭載 SaaS チャットボット | 自社環境に構築する社内ナレッジ検索 AI |
|---|---|---|
| 導入スピード | アカウント開設後すぐに利用可能 | 要件定義から構築まで一定の期間が必要 |
| 参照できる情報 | PDF・Word などアップロードした文書のみ | マニュアルに加え、業務管理ツールの対応履歴やメールなど、多様な形式のデータも統合的に検索可能 |
| 回答精度のチューニング | ベンダーが用意した範囲内で調整可能 | 文書の形式やレイアウトに応じた解析方法の最適化、検索ロジックの細かな調整まで対応可能 |
| 認証・アクセス制御 | SaaS 側の認証基盤を利用 | 既存の社内認証基盤と統合可能。部署や役職に応じたアクセス制限も設計可能 |
| セキュリティ | ベンダー環境にデータを預ける形になる | 自社のクラウド環境内に閉じた構成が可能。機密情報の誤出力防止もプロンプトレベルで制御可能 |
| 拡張性 | ナレッジ検索以外の用途には別契約・別ツールが必要 | 同じクラウド基盤上で他の業務 AI へ段階的に拡張可能 |
ベテラン依存の解消で「よくある失敗」を避けるには
ベテラン依存の解消を目指して社内ナレッジ検索 AI を導入する際、気をつけるべきポイントは以下の 3 点に集約されます。
① 対象範囲を絞って「小さく始める」
ベテランが持つナレッジのすべてを一度に AI 化しようとすると、対象データの整理だけで膨大な時間がかかり、プロジェクトが長期化します。まずは「問い合わせ頻度が高い領域」や「マニュアルが整備されている領域」に絞って始めるのが鉄則です。たとえば、製品マニュアルへの問い合わせや、社内規程に関する質問など、回答の根拠が明確な領域から着手し、効果が確認できたら対象範囲を段階的に広げていけば問題ありません。
② 回答に「出典」を表示する仕組みを入れる
ベテランに代わって AI が回答する場合、利用者が「この回答は本当に正しいのか」を確認できることが重要です。AI の回答に参照元のマニュアルやファイルへのリンクを表示できれば、利用者が自分で正確性を確認でき、AI への信頼度が大きく高まります。「AI に聞くより○○さんに聞いたほうが確実」と思われないための仕組みとして欠かせません。
③ 形式がバラバラなデータにも対応できる構成を選ぶ
ベテランの知識は、整理されたマニュアルだけに存在するわけではありません。PDF、HTML、業務管理ツールの対応履歴、メールの添付ファイルなど、さまざまな形式に散在しています。こうした「構造化されていないデータ(非構造化データ)」と「業務管理ツールの履歴のように一定の構造を持つデータ(構造化データ)」の両方を、それぞれの特性に応じた方法で解析し、横断的に検索できる仕組みが必要です。この点は、SaaS では対応が難しく、自社環境に構築する大きなメリットのひとつです。
予算承認を通すための整理術
ベテラン依存の解消は、現場の担当者だけでは決裁が完結しないケースがほとんどです。経営層への説明で押さえておきたいポイントを整理します。
「退職リスク」を「事業継続リスク」として言語化する
「ベテランに頼りすぎている」という現場の課題感を、経営層が理解できる言葉に翻訳することが重要です。「特定の社員が退職した場合、対応品質の低下や業務の停滞が発生し、顧客対応に影響が出る可能性がある」というように、事業継続リスクとして言語化すれば、経営層の関心事と直結します。
「コスト削減額」より「工数の再配分」で説明する
AI 導入の効果を金額だけで示そうとすると、根拠が弱くなりがちです。「月に○時間かかっている問い合わせ対応のうち、マニュアル参照で解決できる質問を AI に任せることで、ベテラン社員が本来の業務に集中できるようになる」という「工数の再配分」のフレームのほうが、経営層の理解を得やすくなります。
「小さく始めて、データで広げる」戦略を提案する
まず特定の領域に絞って導入し、利用データで効果を確認してから範囲を拡大する段階的アプローチであれば、初期投資を抑えつつ「やってみなければわからない」という不安にも対応できます。「導入効果がわからないものに予算は出せない」という反論に対しては、「利用状況のデータを最初から取れる設計にするので、効果が見えなければ早期に判断できる」と説明できれば、意思決定のハードルは大きく下がります。
退職リスクが「今すぐ対策すべきレベル」かを見極める 3 つの判断軸
「ベテランに問い合わせが集中してる…」
「業務知識が複数の場所に散在…」
「退職や異動のリスクが現実的に見えている…」
この3つが揃っていれば、社内ナレッジ検索 AI の導入効果が出やすい環境です。社内に AI やクラウドの知見が乏しい場合でも、外部パートナーを活用すれば技術面のハードルを下げながら短期間で成果を出すことが可能です。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| ベテランへの問い合わせ集中度 | 特定の社員に質問・相談が集中しているか。その社員が不在のときに業務が滞るか |
| ナレッジの散在度 | マニュアル、対応履歴、メールなど、業務知識が複数の場所・形式に分散しているか |
| 退職・異動リスクの切迫度 | ナレッジを持つベテラン社員の退職・異動の可能性が近い将来にあるか。後任の育成が追いついているか |
実際にベテラン依存の属人化を解消した企業の事例
ここまで紹介してきた「よくある課題」と「押さえるべきポイント」を、実際に乗り越えた企業の事例を紹介します。
電子デバイス製品の設計・開発・販売を手がける加賀FEI株式会社様では、製品に関する問い合わせがベテラン社員に集中し、本来の業務に支障が出る状況が課題となっていました。マニュアルを参照すれば解決できる質問であっても、「ベテランに聞いたほうが早い」という習慣が定着してしまっていたのです。また、新たに参画する社員の製品知識の習熟にも多くの時間とコストがかかっており、ナレッジ共有の効率化が強く求められていました。
この課題に対し、加賀FEI 様では、RAG を活用した社内ナレッジ検索基盤を構築。PDF や HTML 形式で蓄積されていた製品マニュアルだけでなく、業務管理ツールに蓄積された過去の対応履歴も含めて横断的に検索できる仕組みを実現しました。データの形式ごとに最適な解析方法を検証し、約1ヶ月で合計13バージョンにわたるチューニングを実施。たとえば「この修正は完了している?」「関連する過去の対応をまとめて教えて」といった、従来であればベテランに聞かなければわからなかった問いにも、AI が過去の経緯を踏まえて回答できるようになりました。
さらに、この取り組みをきっかけに社内で生成 AI 活用への機運が高まり、専門部署の立ち上げにもつながっています。
(参考:加賀FEI 様導入事例)
総合建設コンサルタントの株式会社ウエスコ様では、過去の設計ミスの再発防止を目的として、社内に蓄積されたナレッジを AI で検索できる仕組みを導入しました。回答の根拠を確認できるよう参照元ファイルへのリンクを表示する機能や、関連する質問をサジェストする機能を備え、将来的に自社で運用を内製化できる設計と引き継ぎ資料の作成まで対応しています。
(参考:ウエスコ様導入事例)
「かんたん AI パック」なら、業務の属人化を短期間で解消できる
こうした課題を短期間で解決する手段として、KDDIアイレットでは「Google Cloud かんたん AI パック」を提供しています。かんたん AI パックであれば、ベテラン依存によるナレッジの属人化を解消するための仕組みを、大がかりなシステム開発なしに構築することが可能です。
「何から始めればいいかわからない」→ パッケージ化で迷わない
かんたん AI パックは、社内ナレッジ検索 AI の構築に必要なインフラ・アプリケーション・運用設計をパッケージ化したサービスです。ゼロから設計するのではなく、実績あるアーキテクチャをベースに自社要件を組み込む形で進めるため、「何をどの順番で決めればいいか」に悩む必要がありません。
「散在するデータも使えるのか」→ 多様な形式のデータに対応
マニュアルや社内規程などの文書はもちろん、業務管理ツールの対応履歴やメールのやり取りなど、形式がバラバラなデータも統合的に検索できる構成を設計可能です。「整理されたデータベースがないと使えない」SaaS とは異なり、今ある情報をそのまま活用できる点が大きな特長です。
「導入後に使われなかったらどうしよう」→ 効果測定の仕組みと伴走支援を標準装備
利用履歴の蓄積・可視化の仕組みが最初から組み込まれているため、「どれだけ使われているか」「どんな質問が多いか」を定量的に把握できます。導入後の社内報告にも、次年度の予算承認にもそのまま活用できる設計です。さらに、導入後の運用定着に向けた伴走支援も提供しており、非エンジニアの部門でも安心して運用を続けられます。
まとめ:業務の属人化は、ベテランが辞める前に手を打てる
「ベテランの知識をどう残すか」という課題は多くの企業が抱えていますが、すべてを一度に解決する必要はありません。
- ベテランへの問い合わせ集中に悩んでいるなら:まずはマニュアルや対応履歴など、回答の根拠が明確な領域から社内ナレッジ検索 AI を導入する
- SaaS の AI 機能では対応しきれないと感じたら:形式がバラバラな社内データも横断的に検索できる RAG ベースの仕組みを検討する
- 予算承認が不安なら:小さく始めて効果を可視化し、データで次の投資判断を支える設計にする
「対象を絞る」「パッケージを活用する」「効果測定を組み込む」。この3つの工夫で、ベテラン依存の解消は決してハードルの高い取り組みではなくなります。
KDDIアイレットでは、「Google Cloud かんたん AI パック」をはじめとする生成 AI 導入支援サービスを通じて、社内ナレッジ検索 AI の企画・構築・運用改善までを一気通貫で支援しています。「まだ要件が固まっていない」「SaaS と何が違うのか整理したい」という段階からでも、お気軽にご相談ください。
ページ監修者
ウェブ・モバイルアプリ開発を通じ顧客の課題解決に取り組む。PM、開発エンジニア、プリセールスとしてプロジェクトを推進。最近は生成 AI を活用したチャットボット開発等の業務改善やデータ分析での営業支援に注力している。