生成 AI のコラム
COLUMN

【専門家に聞く】“言葉を数値に変える”技術が検索を変える ― 「ベクトル検索」で何ができるのかをエンジニアに聞いてみた

「検索精度を上げたい」
「もっと賢い検索にしたい」

社内システムや Web サイトの検索機能に不満を感じている企業は多いのではないでしょうか。キーワードを少し変えただけで検索結果ががらっと変わってしまったり、表記揺れに対応できなかったり、ユーザーが正しい専門用語を知らなければ情報にたどり着けなかったり。

こうした課題を解決する基盤技術として注目されているのが「ベクトル検索」です。テキストを数値データ(ベクトル)に変換し、「意味の近さ」で検索するこの技術は、RAG や生成 AI チャットボット、EC サイトの商品検索など、さまざまな AI ソリューションの裏側で中核的な役割を果たしています。

今回は、ベクトル検索とは何か、どのような技術で動いているのか、そしてどのような場面で活用できるのかを、KDDIアイレットの生成 AI 担当エンジニアに聞きました。

今回、説明してくれる専門家はこの人!

加藤 翔太

加藤 翔太

DX開発事業部でセクションリーダー。
プリセ、PM、PL、実装まで幅広く担当。
Google Cloud Partner Top Engineer 2026

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そもそもベクトル検索とは何ですか?

ベクトル検索は、テキストや画像などのデータを「ベクトル」と呼ばれる数値の配列に変換し、ベクトル間の距離(近さ)を計算することで、意味的に類似したデータを見つけ出す検索技術です。

少しイメージしやすく説明しますね。例えば「犬」「猫」「自動車」という3つの言葉があるとします。ベクトル検索の世界では、これらの言葉はそれぞれ多次元の座標上の点として表現されます。「犬」と「猫」はどちらも動物なので座標上では近い位置に配置され、「自動車」は離れた位置に配置されます。

この「座標上の距離=意味の近さ」という考え方がベクトル検索の本質です。検索したいキーワードやフレーズをベクトルに変換し、データベースの中から「座標が近い」データを探すことで、単語の一致ではなく意味の類似性にもとづいた検索が可能になります。

従来のキーワード検索が「同じ文字列が含まれているか」を判定するのに対し、ベクトル検索は「意味的にどれくらい近いか」をスコアとして算出します。そのため、同義語や言い換え、異なる言語での表現にも対応でき、検索の取りこぼしを大幅に減らすことができます。

ベクトル検索はどのような仕組みで動いているのですか?

ベクトル検索の処理は、大きく3つのフェーズに分かれています。

フェーズ1:エンベディング(ベクトル化)
まず、検索対象となるテキストや画像を「エンベディングモデル」と呼ばれる AI モデルに通して、ベクトル(数百〜数千次元の数値配列)に変換します。この処理を「エンベディング」と呼びます。エンベディングモデルは大量のテキストを学習して「言葉の意味」を理解しており、意味が近い文章は近いベクトルに、意味が遠い文章は遠いベクトルに変換します。

例えば、「明日の天気は?」と「明日は雨が降りますか?」は、言葉は異なりますが意味は近いため、ベクトルに変換すると近い座標に配置されます。

フェーズ2:インデックス構築
変換されたベクトルを効率的に検索できるよう、ベクトルデータベース(Vector Database)に格納し、インデックスを構築します。数百万〜数億のベクトルの中から高速に近傍を見つけるために、ANN(Approximate Nearest Neighbor:近似最近傍探索)と呼ばれるアルゴリズムが使われます。厳密に最も近いベクトルを全件探索するのではなく、わずかな精度のトレードオフと引き換えに、圧倒的に高速な検索を実現する仕組みです。

フェーズ3:類似検索(Similarity Search)
ユーザーの検索クエリもエンベディングモデルでベクトルに変換し、ベクトルデータベースの中から「距離が近い」ベクトルを検索します。距離の計算には、コサイン類似度(ベクトルの向きの近さ)やユークリッド距離(座標間の直線距離)などが使われます。

従来のキーワード検索との根本的な違いは、検索の判定基準が「文字列の一致」から「意味の類似度」に変わるという点です。キーワード検索は「含まれているか、いないか」の二値的な判定ですが、ベクトル検索は「どれくらい意味が近いか」をスコアとして返します。このため、完全一致するデータがなくても、最も関連性の高いデータを返すことができます。

一方で、ベクトル検索にも弱点があります。品番や型番のような固有名詞の完全一致検索、日付や価格による絞り込みなどは、従来のキーワード検索やフィルタリングのほうが得意です。そのため、実際の導入ではベクトル検索とキーワード検索を組み合わせた「ハイブリッド検索」が採用されるケースが多いです。

ちなみに、ベクトル検索と近い文脈でよく登場する言葉に「セマンティック検索」があります。セマンティック検索は「検索クエリの意味を理解して、意味的に関連性の高い情報を返す」という検索体験の概念を指していて、ベクトル検索はそのセマンティック検索を実現するための中核的な技術という位置づけです。セマンティック検索が「何を実現したいか」というゴールの話であるのに対し、ベクトル検索は「どうやって実現するか」という手段の話、と整理すると分かりやすいかと思います。ただし、ベクトル検索の用途はセマンティック検索だけにとどまりません。この後ご紹介するレコメンドや異常検知など、「類似性の発見」が求められる場面全般で応用できる汎用的な技術です。

ベクトル検索はどのような場面で活用されていますか?

ベクトル検索は、先ほどお話ししたセマンティック検索の基盤としてだけでなく、レコメンドや異常検知など、「類似性の発見」が求められる場面全般で力を発揮します。

ベクトル検索が最も注目されている活用先の一つが、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)の検索エンジンとしての役割です。

RAG は、ユーザーの質問に対して社内ドキュメントなどのデータソースから関連情報を検索し、その情報をもとに生成 AI が回答を生成する仕組みです。この「関連情報の検索」のステップでベクトル検索が使われています。

ユーザーの質問をベクトル化し、事前にベクトル化しておいたドキュメントチャンクの中から意味的に最も関連性の高いものを取得する。この精度が、RAG 全体の回答品質を左右します。つまり、ベクトル検索の精度が RAG の精度を決めると言っても過言ではありません。

EC サイトや Web サービスでのベクトル検索活用例

EC サイトや Web サービスでは、サイト内検索の高度化にベクトル検索が活用されています。

例えば、商品数が数万点を超える EC サイトでは、ユーザーが「リビングに合うナチュラルな棚」のように自然な言葉で検索することがあります。従来のキーワード検索ではこうした曖昧な表現に対応できず、検索結果がゼロ件になりがちでした。ベクトル検索を導入すれば、商品説明文の意味を理解して、「北欧風ウッドシェルフ」「天然木のオープンラック」など、意味的に関連する商品を提示できます。

FAQ 検索にも効果的です。ユーザーの質問と FAQ の回答をそれぞれベクトル化しておくことで、質問の表現が揺れても適切な FAQ を提示できるようになります。

類似検索・レコメンド機能でのベクトル検索活用例

ベクトル検索の「似ているものを見つける」という性質は、レコメンドエンジンとの相性が非常に良いです。

例えば、ユーザーが閲覧した商品のベクトルと近い位置にある別の商品を「あなたへのおすすめ」として提示する、というシンプルな仕組みでレコメンドが実現できます。従来のルールベースのレコメンド(「この商品を買った人はこちらも」)とは異なり、商品の意味的な類似性にもとづくため、より本質的な関連性を持った提案が可能です。

コンテンツ系のサービスでも活用されています。記事やニュースの本文をベクトル化しておけば、「この記事に似た記事」を自動的に表示する関連記事レコメンドが構築できます。

求人マッチングの分野でも、求職者のスキルや経験をベクトル化し、求人票のベクトルと近傍検索することで、従来のキーワードマッチングよりも精度の高いジョブマッチングが実現できます。

異常検知・不正検出でのベクトル検索活用例

ベクトル検索は「類似しているものを見つける」技術ですが、逆に「通常とは異なるもの(外れ値)を見つける」ことにも応用できます。

例えば、正常な取引データをベクトル化してデータベースに蓄積しておき、新しい取引データのベクトルが正常データから大きく離れている場合に、「異常な取引の可能性」としてアラートを出す仕組みが構築できます。金融機関での不正取引検出やサイバーセキュリティの分野で活用が進んでいます。

製造業の品質管理でも、正常な検査データのベクトルと比較して異常を検出するアプローチが注目されています。

マルチモーダル検索でのベクトル検索の可能性

ベクトル検索の可能性を大きく広げているのが、マルチモーダル対応です。「マルチモーダル」とは、テキスト、画像、音声、動画など、複数の種類(モダリティ)のデータを横断的に扱うことを指します。マルチモーダル対応のエンベディングモデルを使えば、これらの異なるデータ形式を同じベクトル空間上に配置できるため、データの種類をまたいだ検索が可能になります。

例えば、ユーザーがスマートフォンで撮影した写真をアップロードすると、画像をベクトル化して商品データベースの中から似た商品を検索する「画像検索」が実現できます。「この形のバッグが欲しい」という視覚的な検索ニーズに応えることができます。

逆に、テキストで「青い海と白い砂浜のリゾート」と入力し、意味的にマッチする画像を検索するといった、テキストと画像をまたいだクロスモーダル検索も技術的に可能になっています。

ベクトル検索を導入する際に気をつけるべきポイントはありますか?

ベクトル検索を効果的に導入するためには、いくつかの技術的なポイントを押さえておく必要があります。

1つ目は、エンベディングモデルの選定です。ベクトルの品質はモデルの性能に直結します。日本語対応の精度、対象ドメインとの相性、ベクトルの次元数、処理速度などを総合的に評価して選定する必要があります。

2つ目は、チャンクの分割設計です。長い文書をそのままベクトル化すると、1つのベクトルに複数のトピックが混ざってしまい、検索精度が下がります。文書の論理構造に合わせた適切な分割と、チャンク間の重なり(オーバーラップ)の設計が重要です。

3つ目は、ベクトルデータベースの選定とチューニングです。データ量が増えたときのスケーラビリティ、検索速度と精度のバランス(ANN アルゴリズムのパラメータ調整)、メタデータフィルタリングとの併用など、運用を見据えた設計が求められます。

4つ目は、ハイブリッド検索の設計です。ベクトル検索とキーワード検索を併用する場合、それぞれのスコアをどのように統合するか(リランキング)の設計が検索品質に大きく影響します。

「かんたん AI パック」ではベクトル検索をどのように活用できますか?

「かんたん AI パック」では、Google Cloud のベクトル検索基盤を活用して、エンベディングモデルの選定やベクトルデータベースの構築といった技術的なポイントを意識することなく、ベクトル検索の恩恵を受けることができます。

例えば、社内ナレッジを活用した AI チャットでは、社内ドキュメントをアップロードするだけで、ベクトル化からインデックス構築、検索、生成 AI による回答生成までの一連の処理が自動的にセットアップされます。裏側ではベクトル検索が関連文書の取得を担っていますが、利用者がその仕組みを意識する必要はありません。

Web サイトや EC サイトの検索機能では、Agent Search の内部でベクトル検索が動いており、ユーザーの検索意図を理解した高精度な検索を実現します。商品データの取り込みも、Merchant Center や BigQuery、Cloud Storage、API など複数の方法に対応しているため、既存のデータ基盤をそのまま活用できます。

LLM には Google の Gemini を採用しており、コストを抑えた運用が可能です。お申込みから最短1ヶ月で導入できます。

最後に、ベクトル検索の今後の可能性について教えてください

ベクトル検索は、AI ソリューションの「基盤技術」としてますます重要性を増していくと考えています。

RAG の普及に伴い、ベクトル検索の需要は急速に拡大しています。今後は、エンベディングモデルの性能向上により、より少ないデータでも高精度な検索が可能になるでしょう。また、マルチモーダル対応が進むことで、テキスト、画像、音声、動画を統一的なベクトル空間で扱えるようになり、データの形式を意識しない「意味ベースのユニバーサル検索」が実現していく方向にあります。

ベクトルデータベースの技術も日々進化しており、数十億規模のベクトルをミリ秒単位で検索するスケーラビリティや、リアルタイムのデータ更新に対応するストリーミングインデックスなど、エンタープライズ利用に耐える基盤が整ってきています。

「かんたん AI パック」でも、こうした進化に対応できる基盤を提供していますので、まずは小さく始めて、効果を確認しながら活用範囲を広げていくことをおすすめしています。 ベクトル検索や生成 AI の活用に関心がある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


KDDIアイレットでは、Google Cloud を活用した生成 AI の導入を「かんたん AI パック」で支援しています。ベクトル検索を活用した RAG や高度なサイト内検索から、AI エージェントによる業務自動化まで、お客様の課題に合わせた最適なソリューションをご提案可能です。PoC やカスタマイズのご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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ページ監修者

加藤 翔太の顔写真
加藤 翔太
DX開発事業部 クロスイノベーションセクション セクションリーダー

ウェブ・モバイルアプリ開発を通じ顧客の課題解決に取り組む。PM、開発エンジニア、プリセールスとしてプロジェクトを推進。最近は生成 AI を活用したチャットボット開発等の業務改善やデータ分析での営業支援に注力している。

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