【専門家に聞く】生成 AI をもっと“使える”ものにする仕組みとは ― RAG(検索拡張生成)で何ができるのかをエンジニアに聞いてみた ―
ビジネスパーソンによる生成 AI 活用が進む一方で
「あの資料、どこにあったっけ?」
「この手続き、誰に聞けばいいんだろう?」
社内に情報はたくさんあるはずなのに、必要なときに見つからない。
こうした経験をした方も多いのではないでしょうか。
生成 AI のビジネス利用において、こうした「社内の情報探し」の課題を解決する手段として注目を集めているのが「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」という仕組みです。社内ドキュメントやナレッジを生成 AI と組み合わせることで、質問に対して自社のデータに基づいた正確な回答を得られるようになります。
今回は、この RAG で何ができるのか、どのような仕組みで動いているのか、そしてどのような業務シーンで活用できるのかを、KDDIアイレットの生成 AI 担当エンジニアに聞きました。
今回、説明してくれる専門家はこの人!
加藤 翔太
DX開発事業部でセクションリーダー。
プリセ、PM、PL、実装まで幅広く担当。
Google Cloud Partner Top Engineer 2026
そもそも RAG とは何ですか?
RAG は「Retrieval-Augmented Generation」の略で、日本語では「検索拡張生成」と呼ばれています。簡単に言うと、生成 AI が回答を作る前に、まず関連する情報を外部のデータソースから検索・取得し、その情報をもとに回答を生成する仕組みです。
通常の生成 AI は、学習済みのデータだけを使って回答します。そのため、学習データに含まれていない社内の規程やマニュアル、最新の製品情報などについては、正確に答えることができません。RAG を使えば、自社が持つドキュメントやナレッジベースの情報を生成 AI の回答に反映させることができるようになります。
RAG はどのような仕組みで動いているのですか?
RAG の処理は、大きく3つのステップで構成されています。
ステップ1:データの準備(インデックス化)
まず、社内文書やマニュアル、FAQ などのデータを取り込み、検索しやすい形に変換します。具体的には、テキストを細かいチャンク(断片)に分割し、それぞれを「ベクトル」と呼ばれる数値データに変換してデータベースに格納します。このベクトル化によって、単なるキーワード一致ではなく、意味的に近い情報を検索できるようになります。
ステップ2:検索(Retrieval)
ユーザーが質問を入力すると、その質問もベクトルに変換され、データベースの中から意味的に関連性の高いチャンクが検索・取得されます。
ステップ3:回答の生成(Generation)
検索で取得した情報を、ユーザーの質問と一緒に生成 AI(LLM)に渡します。生成 AI は、取得された情報を参考にしながら、質問に対する回答を生成します。
このように、「検索」と「生成」を組み合わせることで、自社データに基づいた精度の高い回答を実現できるのが RAG の特長です。
逆に言うと、この「検索」のステップがない生成 AI 単体の場合、学習済みのデータだけで回答を作ることになります。汎用的な質問には対応できますが、企業が業務で使うとなると、いくつかの壁にぶつかります。
まず、情報の鮮度の問題です。生成 AI の学習データには時間的な区切りがあるため、最新の社内規程や製品情報を反映した回答はできません。RAG であれば、データソースを更新するだけで常に最新の情報に基づいた回答が可能になります。
次に、ハルシネーション(もっともらしいが事実と異なる回答を生成してしまう現象)の問題です。RAG では、実際に存在するドキュメントから取得した情報をもとに回答を生成するため、根拠のない回答が生まれるリスクを大幅に低減できます。
さらに、機密情報の取り扱いという点でも RAG は有利です。社内データを外部の AI モデルに学習させる必要がなく、検索時に必要な情報だけを参照する形になるため、データガバナンスの観点からも導入しやすい仕組みになっています。
つまり RAG は、生成 AI の「言葉を生み出す力」はそのままに、「自社の正しい情報に基づいて答える力」を加えてくれる仕組みだと言えます。
RAG はどのような業務シーンで活用されていますか?
RAG の活用シーンは非常に幅広いです。最も一般的でどの業種・部門でも特にご相談が多いのが、社内ナレッジの検索です。社内に蓄積された規程集、業務マニュアル、過去の報告書、議事録などを RAG のデータソースとして活用するケースですね。
例えば「出張申請の手続きはどうすればいい?」と聞くと、社内規程から該当する内容を取得して、分かりやすい回答を生成してくれます。「あのファイルどこにあったっけ」「誰に聞けばいいんだろう」と探し回っていた時間を大幅に削減できます。
規程やマニュアルは量が多いうえに改訂も頻繁に発生するので、従来のキーワード検索やフォルダ検索だと目的の情報にたどり着けないことが少なくありません。RAG であれば、質問の意味を理解して該当箇所を横断的に探してくれるので、「社内ポータルをブックマークしたけど結局使わなくなった」という状態を解消できる可能性があります。
その他のユースケースについても、部門別と業種別に分けてご紹介します。
営業部門での RAG 活用例
営業部門では大きく2つの使い方があります。
1つ目は、商品・サービス情報の即時検索です。商材が多い企業では、営業担当者がお客様との商談中やメール対応中に、商品の仕様・価格・競合との比較情報を即座に確認したいという場面が頻繁に発生します。RAG を使えば、膨大なカタログやスペックシート、過去の提案資料から必要な情報だけを取り出して回答してくれるので、提案のスピードと正確性が上がります。
2つ目は、提案書・見積書作成の支援です。過去の提案事例や受注実績をデータソースにすることで、「この業界の顧客に過去どのような提案をしたか」「類似案件の見積もり構成はどうだったか」といった質問に対して、参考になる情報をすぐに取得できます。新人の営業担当者でも、ベテランの過去実績をベースにした提案が組み立てやすくなります。
カスタマーサポート部門での RAG 活用例
カスタマーサポートは、RAG の効果が最も分かりやすく表れる領域の一つです。
製品マニュアルや FAQ、過去の問い合わせ対応履歴をデータソースにすることで、サポート担当者が顧客からの問い合わせに対して素早く正確に回答するための支援ツールとして活用できます。例えば「製品 X のエラーコード 301 が出た場合の対処方法は?」という問い合わせに対して、マニュアルの該当箇所とナレッジベースの過去事例を組み合わせた回答を瞬時に生成できます。
ここで重要なのは、対応品質の均一化という効果です。経験豊富な担当者でも新人の担当者でも、RAG が同じデータソースから情報を取得して回答を支援するので、回答のばらつきを減らすことができます。特にコールセンターやヘルプデスクのように複数の担当者が対応する現場では、この均一化の効果は大きいですね。
理部門(人事・総務・法務・経理)での RAG 活用例
管理部門も RAG の恩恵が大きい領域です。
人事・総務の分野では、就業規則や福利厚生制度、各種申請手続きなど、社員からの問い合わせが多い情報をデータソースにするケースが多いです。「育児休業の取得要件は?」「リモートワークの申請方法は?」「慶弔見舞金の支給基準は?」といった質問に RAG が即座に回答できるようになると、人事・総務部門の問い合わせ対応の負担を大幅に軽減できます。特に、規程の改訂があった場合にも、データソースを更新するだけで最新の内容が回答に反映される点がポイントです。「去年の規程を見て間違った手続きをしてしまった」というリスクも減らすことができます。
法務・コンプライアンスの分野では、契約書のひな型や社内ガイドライン、法改正情報をデータソースに設定し、「この条項の意味は?」「過去に類似の契約条件はあったか?」「今回の法改正で影響を受ける社内規程はどれか?」といった質問に回答させるケースです。法務担当者のリサーチや確認作業の効率化に直結します。
経理の分野では、経費精算のルールや勘定科目の判断基準、税務処理のガイドラインなどをデータソースにすることで、「この費目はどの勘定科目になる?」「海外出張の日当の計算方法は?」といった現場からの問い合わせに RAG が対応できます。
業種特化の RAG 活用例
いくつかの業種では、RAG ならではの効果が発揮される場面があります。
製造業では、設備の保守マニュアルやトラブルシューティングガイドを RAG のデータソースにするケースがあります。工場の現場で設備トラブルが発生した際に、「この装置でエラーが出たときの対処手順は?」と質問すると、膨大なマニュアル群から該当箇所を特定して回答を返してくれます。設備ごとにマニュアルが分かれていても、RAG であれば横断的に検索できるのが強みです。
金融業では、金融商品の説明資料や規制対応のガイドライン、過去の審査事例などをデータソースにして、窓口担当者や審査担当者の業務を支援するケースがあります。商品ラインナップが多岐にわたる場合、担当者が全商品の詳細を記憶しておくのは現実的ではないため、RAG で必要な情報をその場で取得できる仕組みが求められています。
小売・EC 業界では、商品データベースや在庫情報をデータソースにしたサイト内検索の高度化があります。例えば、商品数が数万点を超える EC サイトでは、ユーザーが探している商品にたどり着けず離脱してしまうケースが少なくありません。RAG を活用すれば、「夏に使える軽めのジャケット」のような曖昧な表現やスペルミスを含む検索にも対応でき、ユーザーの意図に合った商品を提示することが可能になります。従来のキーワード一致型の検索と比べて、検索精度と購買体験の両方を向上させることができます。
医療・ヘルスケア業界では、治療ガイドラインや薬剤情報、院内プロトコルなどを RAG のデータソースにして、医療従事者の情報検索を支援するケースがあります。ガイドラインの改訂が頻繁に行なわれる分野であるため、常に最新の情報を参照できる RAG の特性が活きてきます。
RAG を導入する際に気をつけるべきポイントはありますか?
RAG の精度は、データソースの品質に大きく左右されます。古い情報や重複したドキュメントがそのまま残っていると、回答の精度が下がってしまうことがあります。導入前にデータの棚卸しを行ない、情報の鮮度や正確性を確認しておくことが大切です。
また、チャンクの分割方法やベクトル検索のチューニングも重要です。文書の特性に合わせて適切にチャンクサイズを設定しないと、必要な情報の一部しか取得できなかったり、逆に関係のない情報まで取得してしまったりすることがあります。
もう一つ、アクセス権限の設計も見落としがちなポイントです。例えば、人事部のデータは人事部の社員だけが参照できるようにするなど、既存の情報セキュリティポリシーに合わせた権限設定が必要になります。
こうしたチューニングや設計を適切に行なうことで、RAG の効果を最大限に引き出すことができます。
「かんたん AI パック」では RAG をどのように活用できますか?
「かんたん AI パック」では、Google Cloud の生成 AI サービスを活用して、RAG を手軽に導入いただけます。
まず「かんたん RAG プラン」では、Slack や Google Chat など既存のチャットツールにそのまま RAG を組み込むことが可能です。新しいシステムを構築する必要がなく、普段使い慣れたツール上で社内ナレッジを活用した AI チャットをすぐに始められます。利用人数に関係なくクラウド利用料のみでスタートできるため、初期投資も抑えられます。
「オリジナル UI プラン」では、部門ごとに専用のチャットページを構築し、業務フローに合わせたプロンプトや権限設定を組み込むことができます。企業ブランドに合わせたデザインのカスタマイズも可能です。
さらに、「かんたん AI パック」ではマルチエージェント機能も搭載しており、複数の AI が連携して業務を遂行する「自律型 AI チーム」をノーコードで構築できます。RAG による社内ナレッジの即時反映と、グラウンディングによる回答精度の担保を組み合わせることで、信頼性の高い AI 活用環境を実現します。
LLM には Google の Gemini を採用しており、コストを抑えながら高速な処理が可能です。お申込みから最短1ヶ月で導入できるスピード感も、「かんたん AI パック」の大きな強みです。
生成 AI の導入に関心があるけれど、何から始めたらいいか分からないという方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。
KDDIアイレットの「かんたん AI パック」では、Google Cloud を活用した生成 AI の導入を支援しています。RAG による社内ナレッジの活用から、マルチエージェントによる業務自動化まで、お客様の課題に合わせた最適なソリューションをご提案可能です。PoC やカスタマイズのご相談も承っておりますので、生成 AI の活用をお考えの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
ページ監修者
ウェブ・モバイルアプリ開発を通じ顧客の課題解決に取り組む。PM、開発エンジニア、プリセールスとしてプロジェクトを推進。最近は生成 AI を活用したチャットボット開発等の業務改善やデータ分析での営業支援に注力している。