【専門家に聞く】“意味で探す”検索が変える、情報との出会い方 ― 「セマンティック検索」で何ができるのかをエンジニアに聞いてみた
「検索条件に該当する商品はありません。」
みなさんも、このような経験があるはずです。
EC サイトで「夏にぴったりの軽いアウター」と検索しても、該当の商品が見つからない。キーワードを変えても変えても的外れな商品ばかりが並ぶ。こうした「検索しても見つからない」ストレスは、多くの人が日常的に経験しているのではないでしょうか。
この課題を根本から解決する技術として、いま注目を集めているのが「セマンティック検索」です。従来のキーワード検索とは異なり、検索する人の「意図」や「意味」を理解して、本当に求めている情報を返してくれる仕組みです。
今回は、セマンティック検索とは何か、従来の検索と何が違うのか、そしてどのような場面で活用できるのかを、KDDIアイレットの生成 AI 担当エンジニアに聞きました。
今回、説明してくれる専門家はこの人!
加藤 翔太
DX開発事業部でセクションリーダー。
プリセ、PM、PL、実装まで幅広く担当。
Google Cloud Partner Top Engineer 2026
そもそもセマンティック検索とは何ですか?
セマンティック検索は、検索クエリの「意味」を理解して、関連性の高い情報を返す検索技術です。「セマンティック(semantic)」は「意味の」「意味に関する」という意味で、文字通り「意味にもとづく検索」ですね。
従来のキーワード検索は、入力された単語と文書中の単語が「一致するかどうか」で検索結果を決めていました。例えば「車の燃費を良くする方法」と検索した場合、従来のキーワード検索は「車」「燃費」「良く」「方法」といった単語を含む文書を探します。
セマンティック検索は違います。「燃費を良くしたい」という検索意図を理解するので、「エコドライブのコツ」「低燃費タイヤの効果」「アイドリングストップの節約効果」といった、キーワードが直接一致しなくても意味的に関連する情報を見つけ出すことができます。
つまり、検索する側が「正しいキーワード」を知っていなくても、意図を汲み取って適切な情報を返してくれるのがセマンティック検索の最大の特長です。
セマンティック検索はどのような仕組みで動いているのですか?
セマンティック検索を実現する技術はいくつかありますが、現在主流なのは「ベクトル検索」を活用するアプローチです。
まず、検索対象となるテキストを AI モデル(エンベディングモデル)に通して、文章の意味を数百次元の数値ベクトル(座標のようなもの)に変換します。この処理を「エンベディング(埋め込み表現)」と呼びます。同じ意味の文章は近い座標に、意味が異なる文章は遠い座標に配置されます。
検索時には、ユーザーの検索クエリも同様にベクトルに変換し、データベースの中から「座標が近い」つまり「意味が近い」データを探し出します。
この仕組みがあるからこそ、「車の燃費を良くしたい」と「エコドライブのコツ」が、キーワードは一致しなくても「意味的に近い」と判断され、検索結果に表示されるのです。
従来のキーワード検索との最大の違いは、キーワード検索が「文字列の一致・不一致」という二値的な判断しかできないのに対し、セマンティック検索は「意味の近さ」をグラデーションとして捉えられる点です。これにより、検索する側の表現が多少揺れていても、意味的に最も関連性の高い情報を見つけることができます。
ただし、セマンティック検索は万能ではありません。例えば「品番 ABC-1234 の仕様」のように、完全一致が必要な検索にはキーワード検索のほうが適しています。実際の活用では、セマンティック検索とキーワード検索を組み合わせた「ハイブリッド検索」が効果的なケースも多いです。
セマンティック検索はどのような場面で活用されていますか?
セマンティック検索は、「探している情報はあるはずなのに、正しいキーワードが分からなくて見つからない」という課題がある場面で特に力を発揮します。部門別と業種別に分けてご紹介します。
社内のポータルサイトやファイルサーバーには、規程、マニュアル、議事録、報告書など膨大なドキュメントが蓄積されています。しかし、従来のキーワード検索では「そのドキュメントにどんな用語が使われているか」を事前に知っていないと目的の情報にたどり着けません。
例えば、「在宅勤務中にケガをしたら労災になる?」と検索したいとき、従来のキーワード検索では「在宅勤務」「ケガ」「労災」が含まれる文書しかヒットしません。セマンティック検索であれば、「テレワーク勤務規程」や「就業中の災害に関するガイドライン」など、用語は異なるが内容的に関連するドキュメントも検索結果に含めてくれます。
「社内のどこかにあるはず」の情報に、自然な言葉で質問するだけでたどり着けるようになるのが、セマンティック検索の大きな価値です。
EC・小売でのセマンティック検索活用例
EC・小売は、セマンティック検索の効果が売上に直結しやすい分野です。
従来のキーワード検索では、「夏にぴったりの軽いアウター」と検索しても、商品名やカテゴリ名に「夏」「軽い」「アウター」が含まれている商品しか表示されませんでした。セマンティック検索を導入すると、商品説明文に「通気性のよい薄手のジャケット」「春夏向けのライトアウター」と書かれている商品もヒットするようになります。
これは検索精度の向上だけでなく、検索結果ゼロ件の削減にも大きく貢献します。EC サイトで検索結果がゼロ件になると、ユーザーはそのまま離脱してしまうケースが多いため、検索の取りこぼしを減らすことは売上に直結します。
また、商品レビューや FAQ もデータソースとして活用すれば、「子どもが使っても安全な食器」のような具体的なニーズに対して、レビュー内容から適切な商品を提案するといった検索体験も実現できます。
カスタマーサポート部門でのセマンティック検索活用例
カスタマーサポートでは、FAQ 検索の精度向上が主な活用シーンです。
お客様は必ずしも正確な用語で質問するわけではありません。「アプリが固まった」「画面が動かなくなった」「フリーズした」は、すべて同じ現象を指していますが、従来のキーワード検索では別の検索として扱われてしまいます。セマンティック検索なら、これらをすべて同じ意味として理解し、適切な FAQ やトラブルシューティング手順を返すことができます。
サポート担当者が社内のナレッジベースを検索する場面でも効果的です。過去の対応事例を「この症状に似た事例はないか」と自然な言葉で検索でき、対応のスピードと品質の両方を向上させられます。
法務・コンプライアンスでのセマンティック検索活用例
法務の分野では、契約書・規程の横断検索が代表的な活用例です。
例えば「解約時の違約金に関する条項」を探したい場合、契約書によって「解約金」「中途解約料」「キャンセルフィー」「早期解約ペナルティー」など、表現が異なることがあります。キーワード検索ではこれらを一つずつ検索し直す必要がありますが、セマンティック検索なら一度の検索で関連する条項を横断的に洗い出すことができます。
法改正対応の場面でも、「今回の個人情報保護法改正で見直すべき社内規程はどれか?」のような、意味的な関連性で文書を探す必要がある検索に適しています。
その他のユースケースについても、部門別と業種別に分けてご紹介します。
業種特化のセマンティック検索活用例
いくつかの業種では、セマンティック検索の特性が特に活きる場面があります。
製造業では、設備の保守マニュアルや技術文書の検索に活用されています。設備トラブルが発生した際、現場の作業者は必ずしも正式な型番や技術用語で検索するわけではありません。「ポンプから変な音がする」「モーターが熱くなっている」といった現場の言葉で検索しても、関連する保守手順書やトラブルシューティングガイドにたどり着けるようになります。
金融業では、コンプライアンス関連文書や規制ガイドラインの検索が重要です。金融規制は頻繁に改訂され、文書間の関連性も複雑なため、意味ベースで横断的に検索できるメリットは大きいですね。
医療・ヘルスケア業界では、診療ガイドラインや薬剤情報の検索に活用できます。同じ疾患でも複数の呼称がある場合や、症状の記述が医学用語と日常用語で異なる場合に、セマンティック検索が橋渡しの役割を果たします。
セマンティック検索を導入する際に気をつけるべきポイントはありますか?
いくつかの重要なポイントがあります。
まず、エンベディングモデルの選定です。テキストを意味ベクトルに変換するモデルの品質によって、検索精度が大きく変わります。日本語に対応しているか、対象となる業界・分野の用語を適切に理解できるかなど、用途に合ったモデルを選ぶ必要があります。
次に、キーワード検索との使い分けです。先ほどお話ししたように、品番や型番のような完全一致が必要な検索にはキーワード検索が適しています。実際の導入では、セマンティック検索とキーワード検索を組み合わせたハイブリッド検索を構成するのが一般的です。
また、データの前処理も重要です。検索対象のドキュメントをどのような粒度でチャンク(断片)に分割するかによって、検索精度が変わります。長すぎると関連性の低い情報まで含まれ、短すぎると文脈が失われます。文書の特性に合わせたチューニングが必要です。
もう一つ、評価と改善のサイクルを回すことも大切です。検索精度は導入して終わりではなく、実際のユーザーの検索行動や検索結果のフィードバックをもとに継続的に改善していくことで、より精度の高い検索体験を実現できます。
「かんたん AI パック」ではセマンティック検索をどのように活用できますか?
「かんたん AI パック」では、Google Cloud の AI 技術を活用して、セマンティック検索を手軽に導入いただけます。
1つ目は、Web サイトやECサイトの検索機能にセマンティック検索を組み込む使い方です。Google の検索技術をベースにした Agent Search が、ユーザーの検索クエリの意味を理解し、スペルミスや曖昧な表現も含めて適切な結果を返します。従来のキーワード検索で必要だった類義語辞書のメンテナンスも不要で、AI が自動的に言葉を解釈してくれます。
2つ目は、RAG の検索基盤としてセマンティック検索を活用する使い方です。社内ドキュメントを意味ベースで検索し、取得した情報をもとに生成 AI が回答を生成します。単なる検索結果の一覧ではなく、質問に対する直接的な回答が得られるため、「社内ナレッジを検索する」体験そのものが変わります。
どちらの使い方でも、Slack や Google Chat などの既存ツールとの連携が可能で、お申込みから最短1ヶ月で導入できます。
最後に、セマンティック検索の今後の可能性について教えてください
セマンティック検索は、今後ますます「検索体験の標準」になっていくと考えています。
現在はテキストの意味理解が中心ですが、画像や動画、音声などマルチモーダルなデータに対してもセマンティック検索が適用できるようになってきています。「この写真に似たデザインの商品」や「この音声と同じ内容の議事録」のような検索が当たり前になる日も近いでしょう。
また、セマンティック検索と RAG、AI エージェントの組み合わせにより、「検索して終わり」ではなく「検索した情報をもとに AI が回答・実行まで行なう」という体験が主流になっていきます。
「かんたん AI パック」でも、こうした進化に対応できる基盤を提供していますので、まずは小さく始めて、効果を確認しながら活用範囲を広げていくことをおすすめしています。
生成 AI や検索の高度化に関心があるけれど、何から始めたらいいか分からないという方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。
KDDIアイレットでは、Google Cloud を活用した生成 AI の導入を「かんたん AI パック」で支援しています。セマンティック検索を活用したサイト内検索の高度化から、RAG による社内ナレッジの活用まで、お客様の課題に合わせた最適なソリューションをご提案可能です。PoC やカスタマイズのご相談も承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ページ監修者
ウェブ・モバイルアプリ開発を通じ顧客の課題解決に取り組む。PM、開発エンジニア、プリセールスとしてプロジェクトを推進。最近は生成 AI を活用したチャットボット開発等の業務改善やデータ分析での営業支援に注力している。