【専門家に聞く】生成 AI が“自分で考えて動く”時代へ ― 「AI エージェント」で何ができるのかをエンジニアに聞いてみた
「生成 AI を導入したけど、結局コピペして手直ししているだけ」
「チャットで質問するたびにプロンプトを工夫しないと使えない」
こうした声は、生成 AI を業務に取り入れた企業から少なからず聞こえてきます。生成 AI は確かに便利ですが、「人間が指示を出して、返ってきた回答を人間が判断して、次のアクションも人間が実行する」という流れは変わっていない、というのが多くの現場の実感ではないでしょうか。
この「指示待ち」の壁を超える仕組みとして、いま注目を集めているのが「AI エージェント」です。AI エージェントは、ゴールを伝えるだけで、情報収集・分析・判断・実行までを自律的にこなします。
今回は、AI エージェントとは何か、従来の生成 AI と何が違うのか、そしてどのような業務シーンで活用できるのかを、アイレットの生成 AI 担当エンジニアに聞きました。
今回、説明してくれる専門家はこの人!
加藤 翔太
DX開発事業部でセクションリーダー。
プリセ、PM、PL、実装まで幅広く担当。
Google Cloud Partner Top Engineer 2026
そもそも AI エージェントとは何ですか?
AI エージェントは、簡単に言うと「ゴールを伝えれば、自分で考えて動いてくれる AI」です。従来の生成 AI チャットは、人間が質問するたびに1回ずつ回答を返す「一問一答」の形でした。AI エージェントは、最終的なゴールを理解したうえで、必要なタスクを自分で洗い出し、情報を集め、分析し、判断して、実行まで自律的に進めてくれます。
例えるなら、従来の生成 AI は「聞かれたことに答える辞書」、AI エージェントは「仕事を任せられる部下」のようなイメージです。「来週の商談に向けて、この顧客の直近のニュースと過去の取引履歴をまとめて、提案の方向性を3つ出して」とお願いすれば、情報収集から分析、提案の整理までを一連の流れとしてこなしてくれます。
AI エージェントの大きな特長は3つあります。
自律性
指示が曖昧でも、自分で最適な方法を考えて行動します。「売上を伸ばす施策を考えて」のようなざっくりしたゴールでも、必要な情報を集めるところから始めてくれます。
ツール連携
データベースの検索、Web の情報収集、メールの送信、スプレッドシートへの記入など、外部のツールやシステムと連携して実際のアクションを起こすことができます。生成 AI 単体では「テキストを生成して終わり」でしたが、AI エージェントは生成した結果をもとに次の行動まで実行します。
適応力
途中で想定外の情報が出てきたり、状況が変わったりしても、計画を柔軟に修正して対応します。人間がいちいち軌道修正の指示を出す必要がありません。
AI エージェントはどのような仕組みで動いているのですか?
AI エージェントの動作は、大きく4つのステップの繰り返しで成り立っています。
ステップ1:ゴールの理解と計画(Planning)
ユーザーからゴールを受け取ると、AI エージェントはまず「何をすべきか」を考え、タスクを分解して計画を立てます。例えば「来月のマーケティングレポートを作成して」というゴールであれば、「必要なデータソースの特定→データの取得→分析→レポートの構成→文章の生成」といった手順に分解します。
ステップ2:情報の収集と行動(Action)
計画に基づいて、外部のツールやデータソースにアクセスします。データベースに問い合わせたり、Web から情報を取得したり、社内システムのデータを参照したりと、必要な情報を能動的に集めます。
ステップ3:結果の観察と判断(Observation)
取得した情報や実行した結果を評価し、次にどう動くべきかを判断します。例えば、取得したデータが不十分だと判断すれば、追加のデータソースを探しに行きます。期待した結果が得られなければ、別のアプローチに切り替えることもあります。
ステップ4:最終出力(Output)
すべてのタスクが完了したら、ユーザーに最終的な成果物を返します。途中経過の報告や、判断に迷った箇所の確認を求めることもできます。
この「計画→行動→観察→出力」のサイクルを自律的に繰り返すのが、AI エージェントの核心です。
従来の生成 AI チャットとの違いを整理すると、生成 AI は「1回の入力に対して1回の出力を返す」のに対し、AI エージェントは「ゴールに向かって複数のステップを自分で回し続ける」という点が根本的に異なります。生成 AI が「考える力」だとすれば、AI エージェントはそこに「動く力」と「判断する力」が加わったものと言えます。
加えて、AI エージェントには「ツール連携」と「トリガー駆動」という2つの大きな特長があります。
まず「ツール連携」について。生成 AI 単体では、テキストの生成しかできません。しかし AI エージェントは、データベースの検索、API の呼び出し、ファイルの操作、メールの送信といった具体的なアクションを実行できます。つまり、「調べて、まとめて、送る」までを一気通貫で任せられるのです。
そして「トリガー駆動」について。生成 AI チャットは、ユーザーがメッセージを入力して初めて動き出します。つまり、人間が画面の前にいないと何も起こりません。一方、AI エージェントは「メールが届いたら」「センサーが異常値を検知したら」「毎朝9時になったら」といったイベントやスケジュールをトリガーにして、バックグラウンドで自律的に動き続けることができます。例えば、請求書のメールが届いた瞬間に内容を読み取って仕訳データを自動生成する、あるいは設備センサーの異常値を検知したら保守担当者に即座に通知する、といった処理を24時間休まずに実行できるのです。この「人間がいなくても、条件に応じて自分から動く」という点が、AI エージェントを業務プロセスに組み込むうえでの最大の強みだと考えています。
AI エージェントはどのような業務シーンで活用されていますか?
AI エージェントの活用シーンは非常に幅広いです。ポイントは、「複数のステップにまたがる業務」や「情報を集めて判断して次のアクションに移る業務」で特に効果を発揮するという点です。
どの部門でも多いのが、複数のデータソースから情報を集めてレポートを作成する業務です。
例えば、週次の進捗報告を作るために「プロジェクト管理ツールからタスクの進捗を取得→スプレッドシートから数値を集計→前週との比較を分析→レポートの文章を生成」という一連の作業を、AI エージェントがまとめてこなしてくれます。
従来であれば、各ツールを開いてデータをコピーし、Excel に貼り付けて集計し、報告書のフォーマットに整えて…と、何十分もかかっていた作業です。AI エージェントなら「今週の進捗レポートを作って」と指示するだけで、データの収集から成果物の生成までを一気に処理してくれます。
もう一つ多いのが、データ入力・転記作業の自動化です。請求書、発注書、申込書などの紙・PDF・画像データの内容を AI エージェントが読み取り、社内システムへ自動的に入力します。人間が行なう転記作業ではどうしてもミスが発生しがちですが、AI エージェントであれば正確性を保ちながら大量のデータを処理できます。
営業部門での AI エージェント 活用例
営業部門は AI エージェントの恩恵が非常に大きい領域です。
1つ目は、商談準備の自動化です。「明日の商談に向けて準備して」と指示すると、AI エージェントが顧客の企業情報や直近のニュース、過去の商談履歴、競合の動向を自動的に収集し、ヒアリングすべきポイントや提案の切り口まで整理してくれます。これまでベテラン営業が経験則で行なっていた「商談の仕込み」を、AI エージェントが体系的にサポートしてくれるイメージです。
2つ目は、商談記録の自動要約と次回アクションの提案です。商談後に議事メモを共有すると、AI エージェントが内容を要約し、次回の商談で確認すべき事項や提案すべき内容を自動的にサジェストします。営業チーム内での情報共有も効率化され、属人化の解消にもつながります。
3つ目は、見積書・契約書のチェック支援です。見積書や契約書の内容を AI エージェントが過去の案件データと照合し、価格の妥当性や記載漏れ、リスク条項の有無を自動的に検出します。営業担当者が法務や上長に確認を回す前のセルフチェックとして活用でき、差し戻しの回数を減らすことができます。
カスタマーサポート部門での AI エージェント活用例
カスタマーサポートでは、AI エージェントの「判断して振り分ける」能力が特に活きてきます。
まず、問い合わせの自動振り分けと一次対応です。メールやチャットで届いた問い合わせの内容を AI エージェントが理解し、緊急度と内容に応じて最適な担当者・部署へ自動的に振り分けます。さらに、定型的な問い合わせに対しては、過去の対応事例やマニュアルを参照して回答案を自動生成し、担当者が確認・送信するだけの状態にしてくれます。初動対応のスピードが大幅に向上します。
次に、エスカレーション判断の支援です。問い合わせの内容や顧客の過去のやり取りを踏まえて、「この案件は上位の担当者にエスカレーションすべきか」「返品対応が必要か」といった判断を AI エージェントがサポートします。判断基準を事前に設定しておけば、経験の浅い担当者でも適切な対応フローに乗せることができます。
さらに一歩進んで、対応完了後のフォローアップまで AI エージェントに任せるケースもあります。対応が完了した顧客に対して、一定期間後に満足度確認のメールを自動送信したり、類似の問い合わせが再発していないかを監視したりといった継続的なフォローが可能です。
管理部門(人事・総務・法務・経理)部門での AI エージェント活用例
管理部門の業務は「手順が決まっているが、ステップ数が多い」ものが多いため、AI エージェントとの相性は非常に良いです。
人事・採用の分野では、採用業務全体を AI エージェントが支援するケースが増えています。例えば、求人票の作成、競合企業の採用動向の調査、応募書類のスクリーニング、面談評価の標準化といった一連の流れを、AI エージェントが段階的にサポートします。「この職種の求人票を作成して、類似ポジションの市場相場も調べて」という指示一つで、情報収集から文書の生成まで完了します。
法務の分野では、契約書のチェック業務が代表的なユースケースです。AI エージェントが契約書の内容を読み取り、自社のガイドラインと照合して、リスク条項や記載漏れを自動検出します。さらに過去の契約事例と比較して、条件の妥当性についてのコメントも付けてくれます。法務担当者は AI エージェントが洗い出した論点を確認・判断するだけで済むため、レビュー時間を大幅に短縮できます。
経理の分野では、請求書の処理や経費精算のチェックに AI エージェントを活用するケースがあります。請求書の内容を読み取って仕訳データを自動生成し、過去の仕訳パターンと異なる場合はアラートを出すなど、定型業務の自動化と異常検知を組み合わせた運用が可能です。
総務の分野では、社内からの各種申請に対する一次対応を AI エージェントに任せるケースがあります。申請内容の確認、必要書類の不足チェック、承認ルートへの回付までを自動化することで、担当者の手作業を減らすことができます。
その他のユースケースについても、部門別と業種別に分けてご紹介します。
業種特化の AI エージェント活用例
AI エージェントは「複数の情報源を横断して判断する」業務で力を発揮するため、業種ごとに特色のある活用が生まれています。
製造業では、設備の異常検知と初動対応の自動化があります。IoT センサーからのデータを AI エージェントが常時監視し、異常値を検出した場合は、過去のトラブル事例を参照して考えられる原因と対処手順を提示します。さらに、保守担当者への通知や作業指示書の作成まで自動的に行なうことが可能です。設備トラブルの初動対応時間を大幅に短縮できます。
金融業では、顧客マッチングの高度化が注目されています。顧客の属性情報、取引履歴、市場動向、競合商品の情報を AI エージェントが多角的に分析し、個々の顧客に最適な金融商品を提案します。人間では見落としがちな潜在的なニーズも AI エージェントが発見し、提案の精度と成約率の向上につなげることができます。
小売・EC 業界では、在庫管理と需要予測の自動化があります。販売データ、季節要因、キャンペーン情報、天候データなどを AI エージェントが統合的に分析し、発注量の最適化や欠品リスクの早期検知を行ないます。分析結果に基づいて発注の提案まで自動生成してくれるため、バイヤーは判断に集中できます。
物流業では、配送ルートの最適化と異常対応を AI エージェントが担うケースがあります。交通情報、天候、配送先の時間指定などの条件を総合的に判断し、最適なルートをリアルタイムに提案します。配送中にトラブルが発生した場合も、代替ルートの算出と関係者への通知を自動的に行ないます。
マルチエージェントとは何ですか?どのように活用されていますか?
マルチエージェントは、複数の AI エージェントがそれぞれ専門的な役割を持ち、チームのように連携して業務を遂行する仕組みです。
例えば、「新規事業の市場調査レポートを作成する」というタスクの場合、1体のエージェントですべてをこなすのではなく、「市場データを収集するエージェント」「競合情報を分析するエージェント」「レポートを構成・執筆するエージェント」がそれぞれの役割を分担して協働します。人間のチームと同じように、専門性を持った複数のメンバーが分業することで、より高品質で効率的なアウトプットが得られます。
マルチエージェントが特に力を発揮するのは、単一のエージェントでは処理が複雑すぎる業務です。情報収集、分析、レポート作成、関係者への共有といった複数のステップを統合的に処理する必要がある場合、それぞれのステップに特化したエージェントが連携することで、精度と速度の両方を向上させることができます。
「かんたん AI パック」では AI エージェントをどのように活用できますか?
「かんたん AI パック」では、Google Cloud の生成 AI 基盤を活用して、AI エージェントを手軽に導入いただけます。
大きな特長は、ノーコードでマルチエージェントを構築できるという点です。プログラミングの知識がなくても、直感的な操作だけで、複数の AI エージェントが連携する「自律型 AI チーム」を組み上げることができます。例えば、「社内ナレッジを検索するエージェント」と「検索結果をもとに回答を生成するエージェント」を組み合わせて、RAG 機能を備えた高精度な社内 Q&A システムを構築するといった使い方が可能です。
RAG によるナレッジの即時反映と、グラウンディングによる回答精度の担保を組み合わせることで、エージェントが生成する回答の信頼性を確保しています。「AI が勝手に動いて間違った回答をしないか」という懸念に対して、技術的なガードレールを組み込んでいる点が安心材料になるかと思います。
また、既存のチャットツール(Slack や Google Chat)上で AI エージェントを動かすこともできるため、新しいシステムを覚える負担もありません。利用人数に関係なくクラウド利用料のみでスタートでき、LLM には Google の Gemini を採用しているため、コストを抑えた運用が可能です。
お申込みから最短1ヶ月で導入できるスピード感も強みです。まずは1つの業務で AI エージェントの効果を体験していただき、そこから活用範囲を広げていくアプローチをおすすめしています。
KDDIアイレットでは、Google Cloud を活用した生成 AI の導入を「かんたん AI パック」で支援しています。AI エージェントによる業務自動化から、RAG による社内ナレッジの活用、マルチエージェントによる高度な業務プロセスの最適化まで、お客様の課題に合わせた最適なソリューションをご提案可能です。PoC やカスタマイズのご相談も承っておりますので、AI エージェントの活用をお考えの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
ページ監修者
ウェブ・モバイルアプリ開発を通じ顧客の課題解決に取り組む。PM、開発エンジニア、プリセールスとしてプロジェクトを推進。最近は生成 AI を活用したチャットボット開発等の業務改善やデータ分析での営業支援に注力している。