生成 AI のコラム
COLUMN

AI 業務効率化の方法と事例|導入ステップ・ KPI 設定・成果を出す進め方

GMO インターネットグループにおける年間推定107万時間の削減や、伊藤忠商事における年間227万時間超の削減、さらには住友商事での年間約12億円のコスト削減など、大企業による AI 活用の実績が報告されています。一方で、 AI を導入したものの期待した成果が得られていないと悩む企業も散見されます。

その差を生む要因は、どのツールを導入するかという点以上に、どの業務課題を解決するかという視点にあります。 AI を実業務に組み込んで継続的に成果を出している企業は、ツールの選定を進める前に、効率化の対象となる業務と KPI を明確に設定する傾向があります。

本記事では、 AI を活用した業務効率化の具体的な進め方をはじめ、業種や部門別の活用例、 KPI の設定方法、順序、そして継続的な改善を図るための仕組みについて解説します。


AI 業務効率化の現状と成果

日本企業における AI の活用率は急速に上昇しています。財務省が2025年12月から2026年1月にかけて実施した調査によれば、全体の約7割の企業が業務に AI を活用しており、2019年時点の約1割から大幅に増加していることがわかります。規模別に見ると、大企業では89 %、中小企業でも65 % が導入を進めている状況です。

参照:地域における AI 活用を巡る現状(特別調査) - 財務省

各社が公表している主な導入効果の実績として、以下の事例が挙げられます。

これらの成功事例に共通しているのは、特定の繰り返し業務に的を絞って AI を導入し、そこから全社展開へと発展させるアプローチを採用している点です。最初からすべての業務プロセスを変えようとするのではなく、効果が出やすい領域から着手し、成功体験を積み重ねることが効果的であると示されています。


業種や部門別の活用例

営業およびマーケティング部門

提案書や資料作成の効率化において、会議のメモや案件の背景を入力して提案書のたたき台を AI に生成させることで、白紙から書き始める時間を削減できます。また、過去の受注案件に関するナレッジを RAG と呼ばれる検索拡張生成技術で参照し、類似案件の提案内容を参考にしながら新しい提案書を作成する手法も広がっています。

メールの文案作成や顧客のフォローアップ業務を AI に支援させることで、営業担当者が顧客との関係構築に集中できる時間が増加します。商談後のサンクスメールなども、状況に応じたテンプレートを自動生成することが可能です。

マーケティングコンテンツの制作では、SNS の投稿文やメールマガジン、ランディングページのコピーなど、複数のパターンを生成 AI で作成することにより、効果検証のサイクルを速めることができます。

顧客サポート部門

製品の FAQ やサービスの仕様、トラブルシューティングの手順を RAG に組み込んだチャットボットを導入することで、顧客からの問い合わせに24時間体制で自動対応する環境を構築できます。オペレーターは、 AI では対応が難しい複雑な案件に専念する体制を整えられます。

コールセンター業務の効率化においては、通話後の業務報告や応対履歴を AI が自動生成し、オペレーターの処理時間を短縮する取り組みが進んでいます。応対メモを AI で自動分類および要約し、傾向レポートを作成する取り組みでは、データ分析にかかる工数が大幅に削減されています。

IT および開発部門

エンジニアがコーディングを行う際に AI を活用することで、開発の生産性が向上します。新機能の実装に向けたコードのたたき台生成やバグの修正、コードレビューの補助など、開発サイクル全体で AI が活用されています。 GitHub の調査では、 Copilot を使用した開発者がタスクを55%速く完了したという結果が報告されています。

参照:Research: quantifying GitHub Copilot's impact on developer productivity and happiness

API の仕様書や設計ドキュメント、テストケースの作成といった文書化の作業も AI によって自動化でき、エンジニアの作業負担を軽減する効果があります。

バックオフィス部門

経理処理の分野では、請求書や領収書を AI-OCR で読み取り、仕訳の入力を自動化する取り組みが進んでいます。月次レポートの自動生成とあわせて、入金消込作業の自動化やレポート作成工数の削減といった具体的な数値結果が報告されています。

参照:経理部門のミスをゼロに!AI 活用で実現する経理業務の自動化とは? - GMO あおぞらネット銀行

人事の領域においても、求人票の作成から採用面接時のスクリーニング質問の生成、社内研修コンテンツの自動作成まで、採用から人材育成に至る幅広い業務で AI が活用されています。

就業規則や社内の各種制度に関する従業員からの問い合わせに対しても、 RAG を用いたチャットボットで自動応答する仕組みを導入することで、人事や総務部門への問い合わせ対応工数を削減できます。


成果が出やすい業務の特徴

AI 業務効率化で成果が出やすい業務には共通の特徴があります。

1. 繰り返し発生する定型処理
毎月や毎週など、定期的に同じプロセスが発生する業務は自動化による恩恵を受けやすい領域です。月次レポートの作成、議事録の要約、定型メールの送信、請求書の処理などが該当します。

2. テキストや文書の処理量が多い業務
大量の文書を読み込んで要約する作業や、複数の文書から特定の情報を抽出する作業は、人間の時間を大きく消費します。 AI はこうしたテキスト処理を高速に実行できるため、効率化の対象として適しています。

3. ルールに基づく判断業務
社内規程に従って処理を行う、あるいは特定の基準値を超えた場合にアラートを出すといった明確なルールが存在する業務は、そのルールを AI の処理プロセスに組み込むことで自動化が容易になります。

4. ハルシネーションの影響が限定的な業務
AI が事実と異なる情報を生成するハルシネーションが発生した場合でも、人間が内容をレビューして修正できる業務であれば導入のハードルが下がります。下書きの生成や候補の提示といった用途で活用し、最終的な確認を人間が行うフローを構築することが推奨されます。


導入ステップ

スモールスタートによる検証

AI を活用した業務効率化で直面しやすい課題の一つに、全社一斉導入による現場の混乱が挙げられます。すべての部門へ同時に展開すると、実際の業務に定着せずに終わるリスクが高まります。

効果的なアプローチは、特定の業務や1つのチームに絞ってスモールスタートを切り、実際の効果を確認してから他の部門へ横展開していく方法です。

推奨される導入手順は以下の通りです。

  1. 最も工数がかかっている繰り返し作業を1つ選定する
  2. その業務に特化した AI ツールやシステムを小規模な環境で試用する
  3. 作業時間や品質およびエラー率などのデータを測定して効果を検証する
  4. 検証結果を社内で共有し、他の業務や部門へ展開するかどうかを判断する

KPI の設定と効果測定

AI 導入の効果を正確に把握するためには、導入前にベースラインとなる数値を計測し、導入後の数値と比較できる体制を整えておくことが求められます。

設定すべき KPI の例として、以下の指標が挙げられます。

対象業務 KPI の例 計測の方法
問い合わせ対応 一次対応での解決率や対応時間 チケット管理ツールのログデータ
文書作成 業務にかかる作業時間 タイムトラッキングツールによる計測
コード生成 プルリクエストのマージ速度やバグの発生率 バージョン管理システムのログデータ
経理処理 単位時間あたりの処理件数やエラー率 会計システムの出力データ

導入前に現状の作業時間やエラーの発生率を計測しておくことで、 AI 導入後の変化を定量的に示すことができます。具体的な数値データは、経営層への報告や次フェーズの予算を申請する際の判断材料となります。


成果を出し続けるための継続改善

AI システムは導入して完了するものではなく、運用しながら継続的に改善を図る仕組みを構築することが大切です。

定量指標の継続的なモニタリング
工数の削減率やシステムの応答時間、出力品質のスコアなどを定期的に計測し、パフォーマンスが低下していないかを確認します。特に RAG を基盤とするシステムでは、参照する社内ナレッジの鮮度が回答の精度に直結するため、ドキュメントを定期的に更新する運用ルールを設けることが推奨されます。

自動評価システムの構築
AI の出力内容を人間が毎回確認する運用は、工数の負担が大きくなります。そこで、AI の回答品質を自動的に評価する仕組みとして、 Ragas(ラガス) といった評価フレームワークの導入が有効です。 Ragas(ラガス) を用いることで、以下のような指標を定量的に計測できます。

  • Faithfulness(忠実性):生成された回答がソース情報に基づいているかを評価する
  • Answer Relevancy(回答の関連性):ユーザーの質問に対して的確に回答できているかを評価する
  • Context Precision(コンテキストの精度):検索された情報が質問に対して適切かを評価する

これにより、品質モニタリングを継続的かつ低コストで運用し、精度の低下を早期に検知して改善につなげることが可能になります。

参照:cloudpack 導入事例

フィードバックループの整備
現場のユーザーが AI の回答に対して良いあるいは悪いといった評価を行える仕組みを用意することで、改善すべきポイントが自動的に蓄積されます。寄せられたフィードバックをプロンプトの調整やナレッジベースの更新に反映させるサイクルを構築することで、 AI の回答精度を継続的に向上させることができます。


まとめ

AI を活用した業務効率化で成果を上げるためには、どのツールを導入するかという点以上に、自社のどの業務課題を解決するかを明確に設定することがカギとなります。繰り返し発生する作業やテキスト処理の多い業務、ルールベースで判断可能な業務が、効率化の出発点として適しています。

導入を進める際はスモールスタートを基本とし、 KPI を設定して効果を定量的に測定するアプローチが効果的です。得られた成果を社内で共有することで、次のフェーズへの承認や他部門への横展開がスムーズに進みます。

導入後も成果を維持し高めていくためには、品質のモニタリングやナレッジの更新、そしてユーザーからのフィードバックループといった継続的な改善の仕組みを整えることが推奨されます。 AI を導入して終わりにするのではなく、運用を通じて育てていくシステムとして位置づけることが、長期的な投資対効果を高めることにつながります。

cloudpack では、 Amazon Bedrock などを活用した生成 AI 環境の構築から、 Ragas(ラガス) などの評価フレームワークを取り入れた品質モニタリングの仕組みづくりまで、お客様の業務に合わせた実用的な AI 導入を支援しています。どのような業務から AI 化を進めるべきか迷われている方は、お気軽に一度ご相談ください。