生成 AI のコラム
COLUMN

生成 AI を「個人で使えている」と「組織で回っている」の決定的な差とは – 担当エンジニアに聞いてみた

生成 AI の導入に取り組む企業が増える一方、「PoC(概念実証)はやったが、本番化・組織展開できていない」という声が現場から多く聞こえてきます。

実際、生成 AI の活用において、個人レベルでの活用と、業務フローに組み込んだ組織全体での活用の間には、大きな壁があります。その壁はどこで生まれ、どう乗り越えればよいのか。KDDIアイレットで多数の生成 AI 導入プロジェクトを手掛け、AWS Top Engineers や Google Cloud Ambassador に選出されたエンジニア・西田 駿史に、現場の実態と解決のポイントを聞きました。

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今回、説明してくれるエンジニアはこの人!

西田 駿史

gaipack本部 AIDD技術部 AIDD営業推進室 室長
プリセールスエンジニア・プロジェクトマネージャー・アーキテクト
西田 駿史

AWS および Google Cloud を用いた開発案件全般を担当。得意分野は生成 AI を活用したアプリケーション開発。Google Cloud Ambassador、Google Cloud Partner Top Engineer 2026 Fellow、2025 Japan AWS Top Engineers ほか受賞歴多数。

「個人で使えている」状態と「組織で回っている」状態では、何が根本的に違うのでしょうか?

西田 駿史

個人が ChatGPT や Gemini などのツールを使って資料作成や情報収集を効率化できるようになるのは比較的簡単です。しかし、それが「組織の業務フローに組み込まれ、品質が担保された状態で誰もが使える」という状態になるのは、全くレベルの異なる話です。

「個人で使えている」は、いわばツールへのアクセス権があるというだけの状態です。「組織で回っている」状態には、精度の担保、データ整備、そして現場への展開設計という3つの要素がそろっている必要があります。KDDIアイレットの gaipack 本部では、この3つを揃えた状態を「AI 駆動開発(AIDD)」として実践しています。どれか一つでも欠けると、PoC は成功しても本番化・全社展開に至らないケースが多いと感じています。

PoC で終わる企業に共通する課題はありますか?

「PoC 止まり」となってしまうプロジェクトの3パターンを説明してもらいました。

パターン①:精度担保の設計がないまま終わっている

PoC の段階では「なんとなく動いた」で満足してしまいがちとのことですが、本番化に向けて何が必要なのでしょうか?

西田 駿史

実際の業務に使うためには、ハルシネーション(AI が事実と異なる情報を生成してしまう現象)への対策と、回答精度のチューニングが必要です。これを後回しにすると、現場が「使えない」と判断して本番環境に出せないまま終わります。

私たちが KDDIアイレットの新卒採用サイト向けに生成 AI チャットボットを開発した際も、精度向上に向けてさまざまな工夫をしました。よくある質問と回答のデータを網羅的に整備し、回答の根拠となる情報が見当たらない場合は「回答が見つかりません」と正直に返す仕組みを組み込むことでハルシネーションを抑制しています。具体的には、RAG の Retrieval 側で類似度スコアが一定の閾値を下回った場合に回答を拒否する設計を採用しており、AI が「知ったかぶり」をしない仕組みを担保しています。また、禁止ワードの設定や曖昧な表現を避けるプロンプト設計なども行ないました。

こうした取り組みを積み重ねながら、インフラ構築からバックエンド開発、UI/UX 設計を含むフロントエンド開発まで一気通貫で実施し、プロジェクト開始から2ヶ月で本番稼働まで持っていくことができました。

▼ 関連事例
開発期間わずか2ヶ月で生成 AI チャットボットを実用化!ハルシネーションを防ぐ仕組みを構築し、問い合わせ対応工数の大幅削減で業務効率化・DX を推進(アイレット株式会社)

パターン②:社内データが AI に渡せる状態(AI-Ready)になっていない

「生成 AI を入れれば何でも答えてくれる」と思われているケースも多いと聞きます。

西田 駿史

これは非常によくある誤解です。生成 AI が学習していない社内固有のデータを活用するためには、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)という仕組みが必要です。RAG を使うことで、生成 AI が事前学習していない社内データをもとに回答できるようになります。

そのためにまず必要なのが、社内のデータが AI に渡せる状態=「AI-Ready」になっていることです。「データはあるが散在している」「手書きが多くてデジタル化できていない」「表形式で AI が読み取りづらい構造になっている」という状況では、RAG を構築しても精度は上がりません。AI-Ready とは単なるデジタル化ではなく、AI が正確に情報を取得・活用できる構造に整えることを指します。

RAG 構築において、AI-Ready の観点で具体的にどのような工夫が必要なのでしょうか?

西田 駿史

データの「形」そのものを AI に合わせて最適化することが重要です。たとえば、社内規定に地域ごとの特例ルールが多い場合、従来の PDF の表形式のままでは生成 AI が正確に判断しづらいことがあります。

株式会社サニックスエンジニアリング様のプロジェクトでは、まさにこの「データ構造の最適化」がカギになりました。社内規定の表形式をリスト形式や JSON 形式に変換し、特例ルールを明確な記述に整理することで、RAG の検索精度を向上させ、ハルシネーションを低減することに成功しています。

AWS が提供するオープンソース「Generative AI Use Cases(GenU)」と Amazon Bedrock を連携させた社内専用 RAG チャットを構築した結果、全国の保守現場から寄せられる問い合わせへの対応工数を7割削減する成果につながりました。

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問い合わせ対応の工数を7割削減。AWS の生成 AI を活用した社内専用 RAG チャット構築(株式会社サニックスエンジニアリング)

テキストや帳票以外のデータ、たとえば動画や映像資産を AI-Ready にするケースはありますか?

西田 駿史

あります。AI-Ready の考え方は、テキストや帳票だけでなく、映像データにも同様に適用できます。動画をそのまま AI に渡しても精度は上がりません。映像を「視覚情報(映像の状況説明)」「セリフ情報(音声の文字起こし)」「テキスト情報(テロップや字幕)」の3種類に分割し、それぞれに最適化した形でメタデータ化することで、はじめて AI が正確に検索・活用できる状態になります。

株式会社バンダイナムコエンターテインメント様では、膨大なゲームプレイ映像や PV 動画の中から目的のシーンを探し出す作業が、タイトルに詳しいメンバーの記憶や経験に依存する属人的なプロセスになっていました。Google Cloud の Gemini と Vertex AI Search を組み合わせ、映像データを AI-Ready な構造に変換する設計を採用することで、誰でも自然言語で目的のシーンを特定できる独自システム「ClipSearch」の PoC 開発を実現しました。

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AI 活用でゲーム動画の特定シーンを自由に検索可能に!Gemini と Vertex AI Search によるシーン検索システム開発(株式会社バンダイナムコエンターテインメント)

非構造化データ(手書き帳票など)の AI-Ready 化に取り組んだ事例はありますか?

西田 駿史

株式会社 IHI 機械システム様のケースがその典型例です。部門ごとに管理されている帳票や設計データが属人化しており、過去の事例を調査する際の検索に多くの時間がかかっていました。また、手書き帳票が多くそのままではデータ活用が困難な状況でした。

私たちは Amazon Bedrock を活用して手書き帳票を含む非構造化データをデジタル化・ナレッジ化し、Amazon Kendra による高精度検索と組み合わせることで、誰でも過去の問い合わせ履歴や設計不具合の情報を素早く検索できる仕組みを構築しました。さらに、ノーコードでユースケースを追加できる仕組みも導入しており、現場担当者自身が RAG を組み込んだアプリケーションを作成できる環境も整えています。「AI-Ready 化」と「現場での使いやすさ」を同時に実現したプロジェクトです。

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製造業の帳票や設計データなどの非構造化データをナレッジ化!生成 AI を活用した帳票検索システム開発(株式会社 IHI 機械システム)

パターン③:現場への展開設計がない

IT 部門が「作った」けど現場に広がらない、というパターンも多いと聞きます。

西田 駿史

これは非常に多いパターンです。DX 推進部門や IT 部門が開発したシステムであっても、現場が「どう使えばいいかわからない」「自分たちの業務には関係ない」と感じてしまうと、結局使われなくなります。

生成 AI の活用が「全社展開」まで到達するかどうかのカギは、社内での機運の醸成と、現場が主体的に使える仕組みづくりにあります。

加賀 FEI 株式会社様のプロジェクトがまさにそのケースでした。自社製品に関する問い合わせがベテラン開発者に集中し、新任エンジニアの習熟にも時間がかかっているという課題に対して、Vertex AI Agent Builder を活用した RAG 環境を構築しました。

このプロジェクトで特に意識したのは、技術的な成果だけで完結させないことです。開発過程で加賀 FEI 様のエンジニアの方々と密に連携し、生成 AI のトレーニング方法や解析手法に関する知見を社内に共有していきました。その結果、PoC を通じて生成 AI 活用への機運が全社的に高まり、専門部署の立ち上げというアクションにつながりました。これが「組織で回る」状態への確かな一歩です。

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構造化・非構造化データの有効活用に向けて、生成 AI によるナレッジ検索基盤を短期間で構築。PoC 開発で生成 AI の利活用促進を実感(加賀 FEI 株式会社)

本番化できる企業は何が違うのか

本番化・組織展開まで到達できる企業に共通する特徴はありますか?

西田 駿史

一言でいうと、「最初から組織展開を前提にして PoC を設計している」企業です。

PoC の目的を「動くかどうかを確認する」で終わらせるのではなく、「業務フローに組み込んで、誰が・どの業務で・どれくらい使うか」まで設計してからスタートしている企業は、本番化のスピードが全く違います。

また、私がプロジェクトで常に意識しているのは、「技術だけで完結させない」ということです。私が一番怖いのは、PoC で作ったものが誰にも使われずに枯れていくことです。動くものを作って終わりじゃなくて、現場の人が日常で触り続けてくれて、はじめて意味がある。そのために、現場のニーズを丁寧にヒアリングする時間を必ず設けるようにしています。

KDDIアイレットの生成 AI 導入支援について教えてください。

西田 駿史

KDDIアイレットでは、PoC 段階での技術検証から、データ整備・精度チューニング・現場展開まで、一気通貫で支援しています。「まず試してみたい」という段階から、「PoC はやったが本番化が進まない」という段階まで、お客様の状況に合わせた進め方をご提案します。

AWS や Google Cloud の認定パートナーとして、Amazon Bedrock や Vertex AI、RAG 構築など最新技術の知見を持つエンジニアが、御社の業務課題に向き合います。生成 AI 活用にお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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ページ監修者

西田 駿史の顔写真
西田 駿史
gaipack本部 AIDD技術部 AIDD営業推進室 室長

AWS および Google Cloud を用いた開発案件のプリセールスエンジニア、プロジェクトマネージャー、アーキテクト、開発者。生成 AI を利用したアプリケーション開発を得意とする。
Google Cloud Ambassador、Google Cloud Partner Top Engineer 2026 Fellow、2025 Japan AWS Top Engineers ほか受賞歴多数。
(名称は2026年5月時点)

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