【専門家に聞く】ランサムウェア被害、「うちは大丈夫」が一番危ない理由
「ランサムウェアの被害、また出たな」——ニュースを見るたびにそう思いながら、どこか他人事として受け流していませんか。
警察庁の発表 によると、2025年に226件のランサムウェア被害が確認されており、高い水準を維持しています。さらに被害を受けた企業のうち半数以上である 143件は中小企業です。「大企業が狙われるもの」という認識は、もはや通用しません。
問題なのは、「うちは対策しているから大丈夫」と思っている企業ほど、実は見えないリスクを抱えているというケースがあることです。
ランサムウェア被害に関する調査費用や復旧費用は高額化しており、1,000万円を越える組織も半数以上となっています。
今回は cloudpack のセキュリティエンジニア・中村に、攻撃者目線での侵入経路の解説から「最初に取るべき3手」、そして実際の支援事例まで、詳しく話を聞きました。
ランサムウェア被害、「うちは大丈夫」が一番危ない理由 – セキュリティエンジニアに聞いてみた
今回、説明してくれるセキュリティエンジニアはこの人!
クラウド・イノベーション本部 セキュリティ事業部
Security Platform Engineering Section Forward Deployed Engineer Group
セキュリティエンジニア
しろうさ(中村 昌登)(情報処理安全確保支援士 第001124号)
お客様と一緒に『作るセキュリティ』を実践
ランサムウェアの最新動向について
ランサムウェアの被害状況について、現状を教えてください。
警察庁の発表 によると、2025年の国内ランサムウェア被害は226件と2022年から高い水準が続いており、被害企業の半数以上が中小企業です。業界別では 226 件のうち製造業(91件)と、卸売・小売業(34件)で過半数を占める状態となっています。
件数の多さもさることながら、手口の変化も深刻です。IPA 情報セキュリティ10大脅威 2026 にあるように、現在は「多重脅迫」型が主流となっており、データを暗号化して業務を停止させるだけでなく、「身代金を払わなければデータを公開する」と脅してきたり、DDoS や利害関係者への暴露といった複数の脅迫を組み合わせるケースが問題になっています。バックアップから復元できたとしても、情報漏洩の問題が残るということです。
さらに、「RaaS(Ransomware as a Service)」の普及により、専門的な技術を持たない攻撃者でもランサムウェアをサービスとして利用できる環境が整っています。攻撃者の裾野が広がり、標的が際限なく増えているのが現状です。
参考:
警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢について」(2026年3月) https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/
IPA「情報セキュリティ10大脅威」 https://www.ipa.go.jp/security/10threats/index.html
攻撃 AI による高度かつ執拗な攻撃について
攻撃者は、AI を用いた高度な解析や、執拗な攻撃を行なっています。
自然な日本語で、もっともらしい情報を提供するなど、「ソーシャルエンジニアリング攻撃」も過去にないほどリスクが上がっています。
LINE の注意喚起する 社長や役員を装う詐欺 にあるように、システムによる対策だけでは不十分です。システムによる対策だけでなく、社員教育も含めた対策が必要となります。
「うちは大丈夫」が一番危ない理由
なぜ「うちは大丈夫」という意識が危険なのでしょうか。
攻撃者は、セキュリティが堅固な大企業を正面から突破しようとするのではなく、グループ会社や取引先など、セキュリティが相対的に手薄な組織を足がかりにして、そこから本丸へ水平移動するという手口をとります。これが「サプライチェーン攻撃」です。
実際に、上場企業でも子会社や海外拠点を経由した侵入が相次いで報告されています。自社が攻撃を受けるだけでなく、取引先の大企業への侵入口になってしまうリスクがあるのです。
「うちは中小だから狙われない」ではなく、「うちが突破口にされる」という視点の転換が重要です。被害に遭うだけでなく、取引先への被害拡大の原因になれば、ブランドや信頼を大きく損ないます。情シス担当者が「大丈夫」と思った瞬間が、一番危ないタイミングかもしれません。
攻撃者はどこから侵入するのか
攻撃者目線で見ると、どこが「狙いやすい入り口」になるのでしょうか。
攻撃者は、未修正の脆弱性や、漏洩した認証情報や簡易なパスワードを使って組織に侵入します。
侵入後は、より広範囲にアクセスするため管理者の権限奪取や、セキュリティ無効化といったラテラルムーブメント(水平移動)を試みます。
テレワークの普及により、リモートアクセス環境を整備した企業が増えましたが、セキュリティパッチ(更新プログラム)の適用が追いついていないケースが多く見られます。攻撃者は自動化されたツールで24時間、世界中のシステムをスキャンして脆弱な機器を探しています。パッチが当たっていない機器は、攻撃者にとってわかりやすい侵入口になります。
多要素認証などの追加の防御がされていない環境では、フィッシングなどの ID とパスワードの漏洩により侵入を許してしまいます。
脆弱性管理と、強固な認証が不十分な環境が、攻撃者にとって狙いやすい入口となります。
最初に取るべき3手(入らせない・気づく・止まらない)
「何から対策すればよいか分からない」という情シス担当者へ、優先順位を教えてください。
ランサムウェア対策には大きく「入らせない(防御)」「気づく(検知)」「攻撃にあっても止まらない(復旧)」の3つの層があります。この3つを同時に設計することが重要で、どれか一つだけでは不十分です。
まず着手してほしいのは、以下の点です。
1. 攻撃者に入らせない
アカウント・権限の棚卸し
「全員が管理者権限を持っている」「退職者のアカウントが残っている」という状態は、攻撃者に侵入後の水平移動を許す原因になります。最小権限の原則にもとづき、必要な人に必要な権限だけを付与する設計を見直してください。不要なアカウントの削除と多要素認証の導入は、工数をかけずにリスクを大きく下げられる施策です。
2. 攻撃に気づく
CNAPP・EDR の導入による検知強化
従来のウイルス対策ソフトは既知の脅威を「定義ファイル」で検出する仕組みですが、ランサムウェアは常に新しい亜種が登場するため、定義ファイルだけでは対応が追いつきません。
CNAPP(Cloud Native Application Protection Platform:クラウド上に対する総合的なセキュリティ対策ソリューション)や EDR(Endpoint Detection and Response:エンドポイントの脅威を検知・対応するセキュリティソリューション)は、端末の挙動を常時監視して不審な動きをリアルタイムで検知します。暗号化が始まる前の段階で異常に気づき、被害の拡大を抑えることができます。
3. 攻撃にあっても止まらない
バックアップの再設計
「バックアップはとっている」という企業は多いですが、バックアップがネットワーク上の同一環境に存在しているケースが問題です。この場合、ランサムウェアに感染するとバックアップごと暗号化されてしまいます。改変不可能なイミュータブルバックアップを取得して、バックアップはネットワーク的に隔離された場所(オフライン環境や別クラウド環境)に保管し、定期的に「実際に復元できるか」をテストすることが不可欠です。
復旧訓練による対応の強化
ランサムウェアの脅威拡大によって、昨今は「いつ自社が被害にあってもおかしくない」状況となっています。ランサムウェア被害にあってから復旧を始めるのではなく、いつ被害にあっても問題なく対策が取れるように、十分な訓練が求められます。
特にサプライチェーン攻撃を考える場合、取引先を守るために、自社サービスを止められるか?という視点も重要となります。
「事故っても止まらない」設計思想
防御だけでなく、被害を受けた場合にはどう備えるべきでしょうか?
「侵入されない」ことを目指す一方で、「侵入されても事業が止まらない設計」を同時に考えることが現代のセキュリティの考え方です。これはゼロトラスト(すべてのアクセスを信頼しないことを前提とする設計思想)にもつながります。
「内部ネットワークだから安全」という前提を取り払い、「すでに侵入されているかもしれない」という前提でシステムを設計する。具体的には、システムを適切にセグメント(区画)化して水平移動を制限すること、ログを集約して異常を早期発見できる仕組みを作ること、万が一のインシデント発生時に迅速に対応できるプロセスを整備することが重要です。
DevOps(開発と運用を一体化して継続的に改善するアプローチ)の文脈では、インフラをコードで管理すること(IaC)により、侵害されたシステムを迅速にクリーンな状態で再構築できる体制を整えることも、事業継続性の観点で有効です。次のセクションで紹介する大手コンビニチェーン様の事例が、このアプローチの具体的なイメージとして参考になります。
より詳しく知りたい方へ
監修者による、ランサムウェアからの生存戦略に対する登壇内容をご視聴いただけます。
どのようにして、ランサムウェアから自社を守る必要があるのか。より実践的な戦略ガイドとしてご視聴ください。
導入事例:大手コンビニチェーン様・Buzzreach 様・株式会社全国試験運営センター様
大手コンビニチェーン様:「攻撃面そのものをなくす」設計
大手コンビニチェーン様では、グローバル規模での事業展開に伴い、各種公式ウェブサイトへのサイバー攻撃対策が喫緊の課題となっていました。また、システム運用の負荷を外部に委託することで、コンテンツ更新業務に集中したいというご要望もありました。
KDDIアイレットが提案したのは、サイバー攻撃の前面にくるフロント部分をサーバーから AWS のマネージドサービスへ移行するというアプローチです。静的コンテンツと動的コンテンツを棲み分けることで、サーバの脆弱性対策からの解放や運用負荷軽減を目指しました。さらに AWS CloudTrail や Amazon GuardDuty などのマネージドサービスを組み合わせた多層防御により、グローバル水準のセキュリティ環境を構築しています。
監視・保守・運用から CMS 管理までを KDDIアイレットが担うことで、大手コンビニチェーン様がコンテンツ更新業務に集中できる体制も整いました。「事故っても止まらない」設計と運用負荷の軽減を同時に実現した事例です。
▶ 詳細はこちら:大手コンビニチェーン様 AWS 導入事例
Buzzreach 様:WafCharm × securitypack で多段防御を自動化
医療情報スタートアップの株式会社 Buzzreach 様は、治験・臨床研究向け SaaS サービスを AWS 上で運用しており、医療情報を扱うシステムとして厳格なセキュリティ要件が求められていました。一方で、専任のセキュリティ担当者を置くリソースには限りがあり、「仕組みとして回るセキュリティ運用」が必要でした。
KDDIアイレットでは、AI が AWS WAF のルールを自動でチューニングする WAF 自動運用サービス「WafCharm(ワフチャーム)」と、24時間365日のサーバー監視・運用サービス「securitypack(Deep Security)」を組み合わせて導入しました。ネットワーク層からミドルウェア・アプリケーション層まで多段で防御する構成を実現するとともに、監視・通知・対応フローの運用方針もあわせて整備しています。
専門的なルールチューニングが自動化されることで、セキュリティ担当者のリソースを本来の業務に集中できる環境が整いました。「人がいなくても回るセキュリティ」の実践例です。
▶ 詳細はこちら:Buzzreach 様(FeasiCon)セキュリティ強化事例
株式会社全国試験運営センター様: Sysdig Secure による CNAPP 脅威検知
国内随一の試験運営実績を誇る株式会社全国試験運営センター様では、1日最大数万人規模の運営スタッフが全国各地の試験会場で稼働しています。従来は紙ベースで行っていた勤怠管理のデジタル化にあたり、KDDIアイレットがコンサルティングからインフラ構築・システム開発までをワンストップで支援しました。
KDDIアイレットでは、AI が AWS WAF のルールを自動でチューニングする WAF 自動運用サービス「WafCharm(ワフチャーム)」と、CNAPP としてクラウドの設定不備から侵入検知まで対応する「Sysdig Secure」を組み合わせて導入しました。WAF による入口防御のほか、万が一攻撃者が侵入したあとの挙動を分析することで、ランサムウェアなどに対する ECS Fargate 環境への攻撃・侵入などの脅威検知を実施しています。
Sysdig Secure、KDDIアイレット株式会社の運用保守サービスをご利用いただくことで、セキュリティが継続的に維持される仕組みを導入いただきました。
▶ 詳細はこちら:勤怠管理のペーパーレス化で、大幅な業務効率化を実現!勤怠管理システムの DX コンサルティング・インフラ構築・開発
導入を検討している企業へのアドバイス
まず何から動き出せばよいか、最後にひとことお願いします。
まずは「自社のリスクを棚卸しする」ことから始めてください。以下の4つの問いに答えられるかどうか、確認してみてください。
・バックアップは、改変できず、復元できる状態で保管されていますか?
・ネットワーク機器やサーバー・パソコンなどのパッチは最新の状態ですか?
・不要なアカウントや過剰な権限が残っていませんか?
・不審な通信やエンドポイントの異常に「気づける」仕組みがありますか?
「よくわからない」という項目があれば、そこが優先して手を打つべき箇所です。難しいことを一気にやろうとしなくて大丈夫です。この棚卸しから始めるだけで、動くべき方向が見えてきます。
「やりたいけれどリソースがない」という企業こそ、マネージドサービスを活用することで、専任担当者なしでもセキュリティが継続的に維持される仕組みを構築できます。cloudpack では要件定義・サービス選定から導入・運用まで一貫してご支援しています。
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まずは同規模・同業種の導入事例から、自社に近いケースを探してみてください。
具体的な進め方や費用感など、個別のご相談はこちらから承っています。
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ページ監修者
セキュリティ専門家として、クラウドセキュリティとセキュリティマネジメントを中心に活動。Web セキュリティにも精通し、クラウド主権確保の分野では、データ主権および運用主権の確保に取り組む。
朝のルーティンに欠かせないコーヒーは、グァテマラ SHB シティローストを愛飲。
情報処理安全確保支援士(第001124号)資格保持。
(名称は2026年5月時点)