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AI 画像解析による空き家の老朽危険度判定システムで地方創生の支援を目指して森ビル株式会社様のクラウドを活用した導入事例

AI 画像解析による空き家の老朽危険度判定システムで地方創生の支援を目指して

掲載日:2026年4月9日

生成 AI で建物の老朽危険度を自動判定。教師データに依存しない新たなアプローチで地方の空き家問題の課題解決に挑む

「都市を創り、都市を育む」を理念に掲げ、東京を中心に街づくりを手がける森ビル株式会社(以下、森ビル様)は、内閣府の「先端的サービスの開発・構築及び規制・制度改革に関する調査事業」として、地方自治体と連携した空き家対策の実証プロジェクトに取り組まれました。本プロジェクトでは、空き家の自動抽出、生成 AI を活用した空き家の状態判定、不動産価値の簡易査定を一気通貫で行ない、空き家の把握から利活用までをサポートする Web アプリケーションを構築し、その有用性を検証しました。KDDIアイレットは、Google Cloud の Vertex AI を活用したバックエンド開発を担当。マルチモーダル LLM(大規模言語モデル)を活用することで、大量の教師データを必要とせずに写真から建物の老朽危険度を自動判定する仕組みを構築しました。

本プロジェクトについて、都市開発事業部 計画企画部 計画推進部 メディア企画グループの服部様、フロントエンド開発を担当された株式会社アナザーブレインの久田様にお話を伺いました。

課題

  • 従来の空き家調査は調査員が現地で「建物の傾き・基礎・外壁・屋根・使用状況」の5項目を目視確認し老朽危険度を判断しており、多大な工数がかかる上、評価者によるばらつきが課題となっていた。
  • 空き家はあっても市場に出回っておらず、活用可能な物件の掘り起こしが急務だった。
  • AI 導入にあたり、従来の機械学習では大量の教師データの準備が必要で、PoC(概念実証)実施においても高いコストと時間が障壁となっていた。
  • AI を活用したサービス構築の経験がなく、実現可能性の判断が難しかった。

対応と結果

  • 建物の外観写真をアップロードするだけで、生成 AI が基礎や外壁などの状態を評価し、建物の老朽危険度を自動判定できる仕組みを構築。
  • 従来の目視調査による評価の主観性を排除し、迅速かつ客観的な判定が可能に。
  • マルチモーダル LLM の活用により、大量の教師データなしに短期間で PoC を完了。
  • プロンプトの細かな調整や条件式の追加により、AI 判定の精度と信頼性を向上。
  • 水道使用量など公的データとの連携による空き家の抽出や不動産価格査定の自動化など、空き家の利活用検討に必要な情報提供が可能に。

目視調査の限界と AI 導入の壁。地方の空き家問題に先端技術で挑む

人口減少や少子高齢化の進行により、地方都市では空き家の増加が深刻な社会課題となっています。民間予測では、2033年頃には空き家数が約2,150万戸に達し、全住宅の3戸に1戸が空き家になる可能性も指摘されています。適切に管理されない空き家は周辺環境に悪影響を及ぼす恐れもあり、法整備も進められるなど、対策の強化が求められています。
そこで森ビル様は、自社が持つ都市の可視化技術を地方の課題解決に活かすべく、内閣府の調査事業として実証プロジェクトに着手されました。

服部様
森ビル株式会社
服部様

「当社では『都市を創り、都市を育む』という理念で街づくりを行なっています。都市が抱える問題は東京だけのものではなく、地方にも広くあるものです。私たちが持っている可視化技術やデータ活用の知見を、地方の課題解決にも活かしていきたいという想いがありました。」
「空き家は年々増加しているのに、移住希望者に紹介できる物件が少ないというアンバランスな状態になっています。市場に出ていない空き家を掘り起こして活用可能にし、移住者を増やして地方を活性化させることが今回のプロジェクトの目的です。」
「現状、空き家の調査は概ね5年に1回程度しか行なえず、その間に老朽化が進んで発見時には手遅れになってしまうケースが少なくありません。そこで、水道データとの連携で空き家を早期に発見し、基礎・外壁・屋根などの状態を AI でスピーディかつ客観的に評価できる仕組みを目指しました。目視調査の工数を削減し、調査を効率化することで、手遅れになる前に利活用へつなげるサイクルを作りたいと考えました。」(服部様)

構想を形にできる確かな技術力と『実現できます』という力強い提案が決め手に

AI による画像解析の可能性にいち早く着目された森ビル様は、この新たな技術領域での構想を確実に形にできるパートナーを求めていました。KDDIアイレットの力強い提案と、人間と AI の役割分担を柔軟に設計するアプローチが選定の決め手となりました。

「開発当時、AI による画像判定の事例が一般的になってきており、人の目で見て判断できるものは AI でもできるようになるだろうと考えました。ただ、写真だと撮れる角度や枚数に限りがあるため、少ない情報量で AI が人の目と同じレベルの判定ができるのか、やってみないと分からないという懸念はありました。」
「そこで、この構想を実現するために、AI 領域に強みを持つパートナーを探していました。Google Cloud に相談したところ、生成 AI についての実績がある会社として KDDIアイレットさんを紹介いただきました。KDDIアイレットさんの提案では、こちらの要望に対して『そのロジックであれば実現できますよ』と力強く言っていただけたのが非常にありがたかったです。提案の時点で完成形が見えたような安心感がありました。」(服部様)

プロンプトエンジニアリングの工夫で判定精度を向上。フロントとバックの明確な切り分けで開発を推進

開発においては、Vertex AI のマルチモーダル LLM を活用し、建築用語を明示的にプロンプトに組み込むなど、きめ細かな調整を重ねて判定精度を高めました。フロントエンドとバックエンドの明確な役割分担も、スムーズな開発に寄与しました。
フロントエンド開発を担当された株式会社アナザーブレイン様は、当時の開発について次のように振り返ります。

久田様
株式会社アナザーブレイン
久田様

「写真の撮り方について議論した際、KDDIアイレットさんが非常に柔軟に対応してくださったのが印象的でした。最初から厳密なルールを決めるのではなく、まずは今ある写真や撮りやすい方法でやってみて、AI に任せられる部分は任せようというスタンスでした。人間と AI の役割分担について、柔軟に設計していただけたことがスムーズに進んだ要因だと感じています。」
「レスポンスが早いですし、Backlog などのツールの使い方も適切で、情報が迷子にならないように管理されていました。夜間の対応やサーバーの調整など、柔軟に対応していただけた点も助かりました。フロントエンド側の開発と、KDDIアイレットさんが担当されたバックエンド側および AI 部分との切り分けが明確で、インターフェースを早期に決めていただけたので開発がしやすかったです。」(久田様)

AI の信頼性を追求。判定根拠の可視化と「責任ある AI」の設計

本実証プロジェクトで最も注力したのは、AI の精度と信頼性の確保です。判定結果の根拠まで遡れる設計により、説明責任を果たせる「責任ある AI」の実現を目指しました。また、教師データとなる過去の調査結果に評価者ごとのばらつきがある中で、実用的な精度基準の設定にも取り組みました。

「今回のプロジェクトで注力したのは、AI の精度と信頼性です。『AI は嘘をつくのではないか』という懸念を持つ方もいらっしゃるので、納得感のある答えが出るように精度を高める必要がありました。判定結果が出た時にその根拠まで遡れるようにし、一つでも明らかにおかしい判定があればシステム全体の信用に関わるため、慎重に進めました。」(服部様)

「最近は生成 AI ばかり注目されますが、業務で使うには『レスポンシビリティ(責任ある AI)』の観点が重要です。KDDIアイレットさんはその文脈を理解し、なぜその判定になったのかという説明責任を果たせるような設計をしてくださったのが、非常に良い取り組みだったと思います。」(久田様)

「当初は、人間が見ているチェック項目をそのまま AI に代替させればよいと考えていましたが、実際にやってみると人間は画像以外の情報も補完して判断していることが分かりました。例えば『玉石基礎』という石の上に柱が立っている古い基礎の判定や、壁に穴が開いているかどうかの判定です。AI は窓の黒い影を『穴』と誤認識してしまうことがありました。また、植物が屋根を覆っている場合に屋根の状態が判定できないといったケースもありました。そうした課題に対して、プロンプトを細かく調整したり、条件式を追加したりして、試行錯誤しながら精度を上げていきました。」(KDDIアイレット DX開発事業部 担当エンジニア)

実証プロジェクトの成果を糧に、さらなる可能性の探求へ

本プロジェクトを通して、生成 AI を活用した建物の老朽危険度判定の有用性が確認されました。今後はさまざまな角度から、本取り組みの可能性をさらに広げていくことが期待されています。

「今後の展望としては、写真撮影の省力化を進めたいと考えています。例えばドライブレコーダーの映像やドローンで撮影した画像、あるいは住民の方がスマホで撮影して送っていただいた画像などを活用できるようになれば、より実用的なシステムになると考えています。今回は調査事業として一定の有用性は証明できたので、次は法律や運用の面も含めて、より効率化できる方法を模索していきたいです。」(服部様)

「技術的には、Project PLATEAU などの 3D 都市モデルのデータと組み合わせることで、建物の構造や築年数などの属性情報を補完できる可能性があります。デジタル化に積極的な自治体であれば、そうした新しいデータを活用した実験もしやすいと思います。」(久田様)

※ Project PLATEAU:国土交通省が主導する日本全国の都市デジタルツイン実現プロジェクト

森ビル様は、今回の実証プロジェクトで得られた成果をもとに、本取り組みの可能性をさらに広げていくことを見据えています。今後も KDDIアイレットでは、AI を含めた先端技術をお客様の課題解決に直結させるソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に向けて支援してまいります。

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