導入事例
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建物の老朽危険度を生成 AI で自動判定し、空き家問題の課題解決につなげる。地方創生に向けた森ビルの実証プロジェクト森ビル株式会社様のクラウドを活用した導入事例

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建物の老朽危険度を生成 AI で自動判定し、空き家問題の課題解決につなげる。地方創生に向けた森ビルの実証プロジェクト

掲載日:2025年10月28日

課題

  • 実証場所である自治体では、従来の空き家調査が職員による現地での目視確認に依存し、多大な工数がかかる上、評価のばらつきが課題となっていた
  • この課題解決のための AI 導入にあたって、従来の機械学習では大量の教師データ準備が必要で、PoC 実施においても高いコストと時間が障壁となっていた

対応と結果

  • 写真をアップロードするだけで建物の老朽危険度を自動判定できる仕組みを構築。従来の目視調査で課題となっていた評価の主観性を排除し、迅速かつ客観的な判定が可能となる可能性を示した
  • 不動産ライブラリや3D 都市モデルなどの公的データと連携し、価格査定を自動化する仕組みを実装。空き家の利活用検討に必要な情報提供を効率化した

森ビル株式会社様は、内閣府の「先端的サービスの開発・構築及び規制・制度改革に関する調査事業」として、長野県茅野市と共に、空き家の状態判定や不動産価格の査定を行なう Web アプリケーション開発および地域情報提供サービスの構築に取り組みました。そのバックエンド開発をアイレットが担当しました。

人口減少・空き家問題という地域課題に向き合い、生成 AI 活用でボトルネック解消に挑む

森ビル株式会社様(以下、森ビル様)は「都市を創り、都市を育む」を掲げ、国際都市にふさわしい街づくりを推進する総合ディベロッパーです。六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズ、麻布台ヒルズなど、東京を代表する都市再開発を手掛けてきました。その強みは、人々が生き生きと住み、働き、学び、遊び、交流できるような、人の営みから発想した多機能複合型コンパクトシティであり、東京の磁力を創り出す都市づくりにあります。そして、持続可能な都市の未来を見据え、社会課題の解決にも積極的に取り組んでいます。

近年、人口減少や少子高齢化の進行により、空き家の増加が社会課題となっています。老朽化した建物の放置は安全性や景観に悪影響を与えるだけでなく、自治体の管理負担を増大させ、地域の持続可能性を脅かす要因にもなっています。こうした状況を踏まえ、森ビル様は、内閣府の調査事業として社会課題解決に資するプロジェクトに着手されました。

自治体における従来の空き家調査は職員による現地での目視確認に依存し、多大な工数がかかっていた上、評価に主観が入り結果がばらつきやすいという課題がありました 。また、AI 導入にあたっても従来型の機械学習では数千〜数万枚規模のラベル付き教師データが必要となり、時間と費用の壁が立ちはだかっていました。森ビル様はこうした課題を打破するため、教師データに依存しない新しいアプローチに可能性を見出し、アイレットにバックエンド開発をご依頼いただきました。

マルチモーダル LLM で学習コストを削減。きめ細かなプロンプトエンジニアリングにより高精度な判定システムを実現

アイレットは、Google Cloud の Vertex AI を活用し、空き家の老朽危険度を判定するバックエンドシステムを構築しました。従来であれば大量の教師データを必要とする機械学習に対し、マルチモーダル LLM を利用することで、事前に学習済みのナレッジを活用。「草木が建物を覆っている」「窓ガラスが割れている」といった状況を自然言語で指示するだけで判定可能にしました。これにより、膨大なデータ準備の手間を省き、短期間での PoC 実現につながっています。

仕組みとしては、住居の写真を Web アプリケーションからアップロードすると、Vertex AI が画像を解析し、老朽危険度をスコアリングします。その結果はアプリ側に返却され、地図上の物件情報と連動して確認できます。さらに、不動産ライブラリや PLATEAU(3D 都市モデルデータ)など複数の公的データや、自治体が保有する水道使用量データを組み合わせることで、空き家の抽出や不動産価格の査定も自動で行なえるようにしました。自治体職員は地図上で対象物件を選択し、危険度や価格の目安をワンクリックで確認できます。

開発の過程では、AI の判定精度を高めるために多くの工夫を重ねました。たとえば、プロンプトで使う文章は一般的な用語ではなく、建築用語を明示的に指定することでより正確な結果が得られることが分かりました。また、一度に複数の判定を求めるのではなく、1問1答形式に分けて実行することで安定した結果を得られるようにしました。さらに、窓が開いている場合に外壁の破損と誤判定されないよう条件を追加したり、写真の遠近感で建物が傾いて見えるケースに対応したりなど、誤判定を抑制する工夫も取り入れました。

また、システム処理の効率化にも注力。リクエスト制限に対応するため並列処理やリトライ制御を組み込み、一度に大量の判定結果を自動で取得できるようにしました。加えて、AI には判定結果だけでなくその根拠を文章で返すよう設計し、誤判定があった場合には理由を参照してプロンプトを改善するサイクルを回しました。こうした工夫によって、精度と効率性を両立した仕組みを構築しています。

フロントエンドは株式会社アナザーブレイン様が担当し、地図上で空き家候補を一覧表示し、危険度や査定価格を表示するユーザーインターフェースを開発しました。自治体職員が直感的に操作できる画面設計により、空き家管理・利活用検討に必要な情報にすぐアクセスできるよう工夫されています。

本プロジェクトでは、従来の目視中心の調査に比べて、効率化の可能性を強く示す成果を得ることができました。大量の教師データを準備することなく短期間で PoC を実現できたことは、マルチモーダル LLM を活用するアプローチの優位性を裏付けるものでした。また、自然言語による柔軟な判定条件の追加が可能であることから、自治体ごとに異なる基準への対応も視野に入れることができました。本取り組みは空き家管理および移住促進の新しい方向性を示す先進的なモデルケースとして、今後の自治体 DX や社会課題解決に向けた活用可能性を検討していく予定です。

アイレットは今後も、AI を含めた先端技術をお客様の課題解決に直結させるソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に向けて支援してまいります。

システム構成図

システム構成図

使用プロダクト

■Google Cloud
 ・Cloud Build
 ・Cloud Run
 ・Artifact Registry
 ・Cloud Storage
 ・Vertex AI
 ・Cloud SQL for PostgreSQL
■GitHub

案件名 建物の老朽危険度を生成 AI で自動判定し、空き家問題の課題解決につなげる。地方創生に向けた森ビルの実証プロジェクト
クライアント 森ビル株式会社様

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